3、いつの間に変わってたんだろう(1)
dear.
「うわっ」
ああ、こけちゃうこけちゃう。
そう思っていたら千秋は目の前でこけた。石ころも何もないのに躓いてこけた。
俺は助けられずにただ後ろから見ていただけだった。
「い…てぇー、…う、」
うわぁあん!
声を上げて千秋は泣き始めた。
どんくさいな。男の子だろ。それくらいで泣くなよ。そう思いながら俺は千秋に手を差し伸べた。
俺の手に掴まり立ち上がった千秋の膝からは、グラウンドにつけられた擦り傷が出来ており、きれいな真っ赤な血が流れていた。
ぱんぱんと千秋の衣類を払い砂利を落とした。
「うっ、…く、トリぃ〜…」
「だいじょうぶか。」
まだ黄色い帽子を被ってランドセルを背負っていた。
なきじゃくる千秋の手を握って帰った帰り道。
ああ、おれこいつのことまもってやらないと。
おばさんにもよろしくって言われてるし。
そう思った帰り道。
そんな記憶。
例えば鎖を千切って離れた犬と遭遇した時も、一緒に歩いてたら怖いお兄さん達がコンビニにたむろしていた時も、信号が赤のまま気付かず歩き出して車に撥ねられそうになった時も、こいつのこと守ってやらないと。そう思った。
こいつは危なっかしいから。
何もかも不安定でどんくさくて世話が焼けるから。
危険な目に遭う前に俺が守ってやらないと。
守ってやらないと。
そう思っていた。
親友だから。
幼馴染みだから。
こいつは俺がいないと。
俺がいないと。
こいつは俺がいないと生きていけないから。
そう思っていた。
なのにいつからだろう。
こいつがいないと生きていけなくなっていたのは。
俺が守ってやらないとこいつは生きていけないだろう。
そう思っていたのに、こいつを守っている気になっていないと生きていけなくなったのはきっと俺だった。
こいつを守ってやらないと。
こいつを守っている気になっていないと。
親友だから。
幼馴染みだから。
千秋だから。
好きだから。
危なっかしくて世話の焼けるこいつを守っていないと、生きていけなくなったのは俺だった。
「ありがとう、トリ。」
だってそう言って千秋が俺に微笑うから。
お前は俺に守られてくれていないと。
どうかどうか、いつまでも俺を必要としていて。
親友だから。
幼馴染みだから。
お前のことが、好きだから。
そんな風に、思う様になったのは―。
End.
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