everyday.






「ありがとう、トリ。」

えへへと屈託のない笑みを浮かべ、いつの間にか自分よりも小さくなっていた身長の千秋が、床に座り込んだまま俺を見上げて笑う。

「お前は本当に、俺がいないと何も出来ないのか。」

ふんと鼻を鳴らし叱責の様に吐き出す俺に千秋は答える。

「だってー、トリが甘やかしてくれるから。」

「いい加減にしてくれよ。もう大の大人なんだ。」

こんなやりとりは日常茶飯事で、内容なんていちいち覚えていない。
ネクタイが上手く締められなかったり、林檎の皮が上手く剥けなかったり。
今日は風呂上がりに髪を自分で乾かすのを面倒くさがった。
そしてそんな千秋を俺は簡単に甘やかしてしまう。

「うるさいな、わかってるって!」

そして腹の中では言葉とは真逆の事しか思っていない俺。
そう言いながらもまた俺を頼って欲しい。

もし必要ないだなんて言われてしまったら、俺は誰に何を与えて歩いて行けばいい?
そんな事を思っている俺も相当救われないけれど。どうしようもない自分を嘲笑う。

ドライヤーをフローリングの床に置き、後ろから千秋の乾いたばかりの柔らかい髪を梳いた。
くしゃり、その感触に反応し千秋は俯けていた頭を上げた。

「…トリ?」

ゆっくり此方へ頭を回し振り向いた千秋の唇を塞いだ。
シャンプーやらボディソープやらがふわりと馨る。

「…何、だよ、」

大きな瞳が揺れたかと思うと、長い睫毛が下を向いた。
ほかほかと温かい身体を抱き締める。また、痩せたのではないかと思いながらパジャマ越しにあばらの骨を撫でた。

「ちょ、くすぐっ…」

「また、痩せてないか?」

「…別に、…変わってないんじゃない?」

「もっと、太って貰わないと。」

抱き心地も悪い。そう言うと恥ずかしそうにうるせーと小さく吠えた。
馨りも温度も骨格も声も。いとおしくて仕方がなくて、抱き締めた腕にきゅっと力を込めた。

じゃあさ、と小さく千秋が呟く。

「トリが美味い飯いっぱい作ってくれたらいいだろ。」

そんな事を言われて思わず笑みが零れた。


ああ。
いくらだって作ってやる。
お前が望んでくれるなら。
何だってしてやる。
お前が必要としてくれるなら。


だからどうかどうか、お前はいつまでも変わらないでいて。
面倒くさくて世話の焼けるお前のままでいて。





出来ることなら、いつまでも俺を必要としていて―。








もう一度静かに小さな唇を塞いで、ゆっくりと二人で目を閉じた。







End.



小さな頃のトリの視点から、現在へと通ずる千秋への想いにグッときます。
千秋に必要とされることは、トリにとってのアイデンティティだと思うのです。幼いトリと現在のトリの二つの描写でそれを丁寧に書いて下さって、とても楽しく読ませて頂きました。二つも楽しめて、二倍嬉しかったです。ほくほく。
素敵なお話有り難う御座いました!








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