おひとよし




「あ、もう焼けたかな?」

「……焼きすぎじゃね?」

「うっわやば焦げ臭っ! ジェイクもったいないから食べてよ」

「嫌だよ捨てろよ!!」

「じゃあヴィルでもいいや! 食べる?」

「さすがに炭は食べれないから!!」

「そういう問題か?」

 焚き火を囲んだヴィルや双子たちのテンポの良い会話が続く中、シェスカはゆっくりとその場を離れ、ランタンを片手に周りを見渡した。
 暗く、何本も枝分かれしているであろう通路は、灯りが照らしている以上の先は何も見えない。また、火を使っているのに、全く煙たくなかった。

――不思議な通路ね。さすがはエルフの遺跡ってとこかしら。

 今度は壁に目を向けてみた。オレンジ色に照らされたそこには、少々色褪せてはいるものの美しい色遣いの絵画がめいっぱいに描かれている。エルフや、白い翼をもつ人たち、美しい自然。まるで歴史を見ているかのようだ。

「また手掛かり探し?」

 シェスカが離れたことに気付いたらしいヴィルが、焚き火から離れてこちらにやってきていた。

「まぁ、ね。見つかりそうにないけど」

 やはりどこにも見覚えのある物などない。遺跡で目が覚めたからといって、手掛かりが遺跡にあるとは限らないのではないか、と今まで何度も浮かんできた疑問がまた頭の中を支配する。ほんのすこしの心細さを感じて、シェスカはきゅっと唇を噛んだ。

「……大丈夫か? ケガしたとこ痛むとか……」

「大丈夫。平気よ」

 心配そうに尋ねるヴィルの方を向かずに、短く答える。
 この程度のことでいちいち考えていたってしょうがない。今はこの通路を抜けることだけ考えればいいのだ。そう言い聞かせて、彼女はまたゆっくりと焚き火のほうへ戻ろうとする。

「シェスカ」

 ヴィルとすれ違おうという時、ふいにそう声をかけられた。

「あんまり噛むと血が出ちゃうぞ」

「え?」

「あ、違ったらごめん。シェスカって唇噛むの癖だろ?」

 そう言われて自分の唇に手をやると、案の定少しだけ血がにじんでいた。
 そういえば少し前に、そうやって無意識のうちにケガをしていたことを思い出す。

「あぁ、そうかも。ありがと」

 シェスカは袖で軽く血を拭うと、そのままヴィルと焚き火の輪に戻っていった。




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