BUBBLY GIRL






……ちょっと、やりすぎたか?


ホワイトデーのプレゼントとして用意しておいたのは、バスソープと同じミルキーカラーの ふわふわ生地のバスローブ。

まだ濡れた身体に、それを纏って、湿った髪をバスタオルでむくむくに巻き、恨みがましい目でクッションを抱きかかえ、ベッドにへたり込んでいる砂南。

…………まあ、言い訳はせぇへんけど。



   *   *   *   *   



ホワイトデーの夜。騙し討ちで俺にバンドのローディーをさせたことをメンバーに寄ってたかって説教されたという。いつもより随分、しおらしい態度の砂南に、調子に乗って傷ついたフリをしてみせて。

……それで抵抗できんような空気に持っていったのは卑怯やったかもしれんけど。


ユニットバスよりはマシ、という程度の狭いバスタブ。そこに倍量の入浴剤を入れたせいで、湯に3cm沈めた自分の手が、もう見えない状態になっている。

「ホラ、砂南、砂南!早よ入ってきぃや!」

バスタブの縁をバシバシ叩きつつ、先に湯に浸かって待っていると、やがて砂南は身体にバスタオルをぐるぐるに巻いてバスルームに入ってきた。


「…………なんで、そんなにテンション高いの」

…………そうか?

「……すごい楽しそうだよ、真子」

……おかしいなぁ。やり方が卑怯やったかと、罪悪感さえもっとるくらいやのに。

「顔がやらしい」

……………………。


「……ま、ええやん。それより、風呂にタオルつけたらあかんで。それ外し」

言うが早いか、バスタオルを引ったくって脱衣所に放り投げ、砂南の手を引いて。手早く掛け湯をしてやって、とっとと抱え上げて湯船に沈めてしまう。

お互い裸で、そこが風呂場だということ以外は、いつもと同じ。後ろから抱き締めるようにして、湯に浸かる。


「……もう、あたしの裸なんか見慣れてるんじゃないの?なんで、そんなに一緒のお風呂にこだわるのか、わかんない」

お湯の熱さか羞恥心でか頬を染めて、後ろから覗き込む俺の視線からひたすら逃れようとしつつ ぼやく。

「むしろ、ほぼ毎晩ヤッとるのに、そこまで恥ずかしがるオマエの方が不思議やわ」

チュッ、と音を立てて口付けて。真っ赤になる砂南を抱き上げつつ、ニヤリと笑って宣言した。

「じゃあ、これから みっちり洗うたるわ」




流石に、風呂場で最後まではしていない。

湯当たりのせいだか、洗い場での軽いセクハラのせいだか、ぐったりと俺にもたれる砂南の火照った身体にバスローブを着せてやって。


……その場で押し倒さんかった俺を褒めてほしいくらいや。

…………だいたい、そんな風に睨まれても、可愛いだけなんやけど。


ペリエのグラスを手渡しつつ、隣に腰を下ろす。グラスに口をつけるのを確認して、自分のグラスを手にしたところで、俺の顔を見上げている砂南に気付く。

「なんや、どないしてん」

と、そっと腕が伸びて俺の髪に触れる手。

「真子、まだ髪濡れてる」

「ああ……俺はええねん。それより……」

肩を抱き寄せて、耳元に唇を寄せて。


「休憩したら、風呂場での続きするで」

砂南の手の中のグラスを取り上げて、テーブルの上に置いて。

潤んだ目を見つめながら、言い返す隙を与えないよう深く口付けた。



(2010.03.20. up!)



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