HERE, THERE & EVERYWHERE






マンションの屋上に仰向けに寝転がって、流れる雲を眺めていた。

少し強い風に流される雲のせいで、さっき隠れた星が、また姿を現す。 


「風邪ひくで」

唐突に、あたしの視界の中に さかさまに現れる真子。

「義骸なのに?」

「昔、魂魄の身体で風邪ひいたことあったやろが」

そう言うと、あたしの身体に ばさりとジャケットを落とす。

「着とき。義骸や言うても、ちょっとは寒いやろ」

仕方なく上半身を起こして、ジャケットを着込む。それをじっと見ていた真子は、ようやく満足げにニヤリと笑って、あたしの隣に腰を下ろした。


「で、何を見とったんや?」

「オリオン座」

「……また、えらいピンポイントやな」

「それしかわかんないんだもん」


星を見上げて、無意識に手を擦り合わせつつ、はあっと白い息を吐いて。

「あそこに生まれてたら、何か違ったかな、あたし」

「そんなんつまらんやろ。あんなとこに生まれとったら、俺がおらへんのやで?」

面白くもなさそうな顔で、当たり前のように言う真子。

「追いかけてきてくれないんだ?」

「追っかけてきて欲しいんか?」

「……今度は、真子が追いかけてきてくれたっていいじゃん」

隣に座る真子の腕にしがみついて頬を寄せたら、腕を振り払われて、かわりに真子の足の間に座らされ、そのまま背中から抱き締められる。

「そうやなぁ……」

あたしの肩に乗せられる真子の顎。ぽつりと呟かれた短い科白は、何故だか妙にしんみりとしたトーンで。

そんな他愛のない戯言を言える距離にいられることが何より幸せで……だからホントは、今以上のことは何も望まない。


「今、何を考えとるか当てたろか?」

「え?」

後ろから あたしの顔を覗き込んだ真子は、またニヤっと笑う。

「腹へった。コーヒー飲みたい」

「ちょっ……!」

抗議しようとした瞬間、盛大に同意の声を上げる あたしのハラの虫。

…………うっ。


「な?」

真子は くすくすと笑いながら、あたしのお腹を撫でる。

「アジトに飯食いに行こうや。さっき、拳西から おでんが食べごろやて電話がかかってきてん」


ひょい、と あたしを抱きかかえるようにして立たせると、真子は先に立って歩き出す。

「行くでー」


慌てて、その後を追う あたしを横目で確認した真子は、立ち止まって振り返ると、こちらに手を差し伸べた。



(2010.01.17 up!)



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