昔話をしようか 藍染の一件から数日が経った頃。 旅禍として朽木を助けに来た一護達も死神と仲良くなっていた。 隊長も随分回復して軽い仕事なら出来るようになった。 ギンは、静希隊長が言ってた通り降格と2年の謹慎。 それだけで済んで良かったのかもしれない。 そして空席となった三・五・九の隊長位には今回仮面の軍勢として助けてくれた元隊長達が就いた。 静希隊長が懐かしいなって京楽隊長や浮竹隊長と話してたのを聞いたけど、なんか楽しそうであたしも嬉しかった。 短期間でこんなにも変わった。 「なぁ乱菊さん」 十番隊の執務室で一緒にお茶してた一護がふと思い出したように訊ねてくる。 「なに?」 「乱菊さんとあのー、静希?って隊長。どういう関係なんだ?」 どうやら一護はあのあたしが静希隊長に抱きしめられて泣いてたのを見たらしく、ずっと気になってたとか。 「んーそうねぇ…命の恩人、かしら」 「命の恩人?」 「そ。んであたしの初恋の人」 「初恋ぃ!?」 「初恋の人!?」 一護の驚きと一緒に女の子の声も聞こえて扉の方を見れば女子が二人。 「あら朽木に織姫」 「乱菊さんの初恋って市丸隊長?じゃなかったんだ!」 「ギン?やあねぇギンは兄弟みたいなもんよ」 「それでは命の恩人とは?」 朽木に聞かれてんー。と考える。 「じゃあ昔話でもしましょうか」 キラキラとした視線があたしに向けられた。 ─── ── ─… 静希隊長とあたしが初めて出会ったのは、まだあたしが小さい頃。 虚に襲われてもうダメかもって所で助けに来てくれた死神が静希隊長だった。 「大丈夫か?」 斬魄刀一振りで虚を倒してしまった隊長はくるりと振り返り倒れたあたしを抱きかかえて鬼道で傷を治してくれた。 すぅっと楽になるのが分かって、小さく頷くとにっと笑顔になる。 「良かった。…すまねぇな」 この時は何で謝られたのか分からなかった。 だって隊長が来てくれなかったらあたしは死んでたんだから。 謝られる理由が分からなかった。 まぁそれは先日分かったんだけど。 でもその時の隊長の顔があまりに苦痛そうだったから、何で?なんて聞けなかった。 「名前は?」 「まつもと、乱菊…」 「乱菊か。いい名だ」 そう言って頭を撫でてくれて、それがすごく落ち着いたのを覚えてる。 「なぁ乱菊。お前の霊圧は普通より高い」 「…?」 霊圧とかさっぱりで何を言ってるのか分からなかったけど、隊長はすごく真剣で、あぁちゃんと聞かなきゃって。 「さっきの化物。あれは虚っていって霊圧が高い奴が狙われやすい。だから乱菊も襲われたんだ」 「、うん」 「霊圧が高い奴はやらなければならない事がある。それは自分で制御出来るようにする事。霊圧をコントロールしなけりゃ周りの奴らを危険に晒すことになる」 「こんと、ろーる、?」 「あぁ。その為には学校へ行かなきゃならない。真央霊術院だ。そこで死神の勉強をすれば霊圧だってコントロール出来るようになるし自分の身を護る術だって手に入る」 この時初めて死神が何なのかを知った。 そして自分が死神にならなきゃいけないことも。 「おにいさんも、死神?」 「ん?そうだよ。十番隊隊長、姶良静希だ」 「たいちょう」 「そう、隊長」 「じゃあ強いんだ」 「どうだろうな」 そう言ってまた笑った。 「乱菊。また会おう。今度は死神として」 これがきっかけであたしは死神を目指した。 強くなってあの人に近づけるように、隣に並べるように。 立派な死神になってあの人に会いに行こうと誓った。 それから霊術院で沢山学んで晴れて護廷十三隊に入隊した。 成績はそこそこ良かったからね、あたし。 配属は勿論十番隊を希望した。 結果十番隊の第四席。 「隊長!」 「おぉ、乱菊か」 大きくなったなってあの時みたいに頭を撫でてくれて嬉しかった。 そこで改めてこの人に恋してるんだって思った。 四席としてこの人の下で働けるんだって胸を踊らせてた。 でも翌年に三席だった死神が虚討伐で殉職しちゃって、四席だったあたしが三席に繰り上がることになったの。 上司の殉職は初めての経験で悲しかったけど死神とはこういうものなんだって隊長に教えられた。 それから5年間。 静希隊長の下で十番隊第三席として頑張った。 その間もどんどん静希隊長のことが好きになっていって、知れば知る程想いは募った。 そんなある日よ、静希隊長に昇進の命が下されたは。 既に隊長なのに、昇進?って。 多分誰もが思ったんじゃないかしら。 「零番隊の隊長を任されることになった」 静希隊長から出た隊名は初めて聞くもので、零があったなんてその時初めて知った。 それがすごい事なのは当時の副隊長に聞いておめでとうございますって言いたかった。 でも言えなかった。 だってあたしの直属の上司じゃなくなる。 毎日一緒に仕事出来なくなる。 そう思ったらもうどうしようもなくて。 静希隊長が十番隊から零番隊になる日。 「静希隊長!」 叫んでた。 「ん?」 もう背中に十の文字は見れない。 あそこには零が来る。 これから静希隊長は零を背負うんだ。 何よりも大きくて、重たい零を、背負うんだ。 「あたしがもっともっと強くなって、」 「うん」 「っあたしが、副隊長になれたら!」 遠くなる。 隊長が、遠くなる。 だからあたしは強くなる。 近付けるくらいに強くなる。 「恋人になってくれますか!」 瞬間ゆっくり見開かれた隊長の碧い目は直ぐに優しく細められた。 「いいよ」 たった一言。 だけどその一言があたしは一番嬉しかった。 …─ ── ─── 「それでそれで!?」 最初よりも目をキラキラさせた織姫が身を乗り出しながら聞いてくる。 「その3年後ね。当時の副隊長が他隊に移動になってあたしが試験に合格して、無事十番隊の副隊長になったわ」 「へぇ、」 「姶良隊長は、どうされたのですか?」 「ちゃんと約束守ってくれたわよ。このネックレス持ってね」 「わぁ、素敵なお話!すごくロマンチックだね!」 織姫はこういうの好きなのね。 「似合いますね、そういうの」 朽木の言葉に同意する織姫と一護。 「あの隊長さんすっごいかっこいいもんね!」 「そーいや綺麗な顔してたなぁ」 「そーなのよ!強いしかっこいいからもうモテモテで」 こういうのもいいわね。 今までが嘘のように平穏。 「乱居るか」 隣にあなたが居てくれたら、それだけで幸せ。 護る為に沢山のモノをその零に込めて全て背負うあなたを、 あたしは愛して生きたいです。 (8/8) |