▼ 女の子はにゃんこ
天気の良い昼下がりのことでした。
デカパン博士は、新たな薬を生み出したのです。
「こ、これは凄いものが出来たに違いないダス!」
その薬の入ったビーカーを握りしめ、興奮したように博士は叫びました。
丁度その時です。1匹の猫が猛ダッシュで研究室に入り込み、博士にぶつかったのは。
「あぁー!折角の薬がー!!」
案の定、博士が持っていた若草色の怪しげな薬は…白黒のハチワレにゃんこの上に零れたのです。
薬を浴びた猫は、虹色の光と共に姿を変え――
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲
「いつもご飯をくれてた人間!見つけたにゃー!!」
綺麗な黒髪の可愛い女の子は、事もあろうか笑顔で俺に駆け寄ってきた。パニック!
ドクドクと煩い心臓を押さえつつ、何とか呼吸をして、乾く直前の目を一旦閉じて、頭を振り、もう一度見たくもないクソな現実を見るべく目を開ける。
…夢じゃない、だと!?
「なにしてるにゃん?
ハッ!もしかして具合が悪いのかにゃー!?」
それは大変にゃん!と鈴を転がすような清浄な声と共に、きゅっ。と両手を優しく握られて、一瞬落ち着いたかと思われた思考が再び暴れ出す。
「…ここは天国か――?」
「し、しっかりするにゃん!」
ブンブンと握られた両手を振られ、夢でも良い。覚めないでくれ。と思った矢先、握られていた手を離され、え?と思った瞬間、可愛い女の子が突然どこからかフライパンを取り出したかと思うと、ガァン!と――
――死んだかと思った。
「気がついたかにゃー?」
目を覚ますと、目を閉じる前に見た可愛い女の子の膝枕とか、どんなご褒美だろうか。
…何故か頭が痛いが、それを帳消しにするほどに眩い目の前の現実。
「急に倒れるから驚いたにゃん」
えへへ。と可愛らしく笑う女の子から素早く距離をとり、尊い存在に思わず拝む。その時、頭以外も痛いことに気がついたが、些細なことだ。
そして、今居る場所がさっきと違っていて、そこはかとなく見覚えがある気がするのも、些細なことだ。
「気がついたダスか?」
「はかせー!」
ピョン。と弾けるように女の子が駆け寄った先にいるのはデカパン。
女の子とデカパン、一体どんな関係が!?と邪推が止まらなくなりかけた瞬間、あり得ないものが目に飛び込んできた。
とてつもなく可愛い耳と尻尾が女の子に付いてる!
「…は?」
「どうやら、そろそろ効果が切れるみたいダスな」
「……え??」
「もうちょっと遊びたかったにゃー」
理解が全く追いつかず、混乱しながらも不満げに揺れる女の子の尻尾を思わず凝視。
…あれ、どこかで見たことある?
「ご飯くれる人間、いつもありがとうにゃん。
また遊んでにゃー?」
何処で見た?と考えている間に、女の子は両手をあげて嬉しそうに手を振ったかと思うと、虹色の光に包まれて…猫になった。
あ、三丁目のハチワレちゃんだ、すっきりした。…って、え?
「…どういうこと?」
「それはダスなぁ、」
デカパンが説明をしている間に、ゴキゲンな足取りでハチワレちゃんは部屋から出て行くのが見えた。
ぼんやりと聞いていた話をまとめると、三丁目のハチワレちゃんはデカパンの薬でうっかり人間になったらしい。
…なにそれ、欲しいんですけど。
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