あおいそら

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ひきわたし

「はじめまして、迷子の三日月宗近サンの主サン。
 ワタシは迷子捜索係デス。
 最近設立されたばかりで、このショッピングモールにはまだワタシしか居らず…まだまだ知らない方も多いみたいデスね…。
 この三日月宗近サンは、E-25地区で迷子になっていたため保護、案内させていただきました」

 "迷"と書かれた紙のしたでニッコリと笑みを作りつつ、頭を下げながら、中々離してくれない三日月の手をコッソリとふりほどこうと試みた…ら、先ほどより力を込められてしまった。

「あ、これはこれはご丁寧に有り難うございます。
 どうやらウチの三日月がお世話になったようで…って、おい!三日月!!さっきから思ってたけど、なんでお世話になった方の手を握ってんの?」

「あぁ、迷子捜索係の手の握り心地が良くて…つい、な」

「つい、じゃないからね。
 分かってる?爺さん…」

 審神者さんが話の途中で、繋がれている私と三日月に手を指さしたかと思うと突如三日月を怒り出したが…当の本人は、ほけほけと笑いながら、ゆっくりどこか名残惜しそうに私の手を離した。
 そんな三日月に疲れた様子の加洲は溜息をつきながら、三日月の肩を軽く叩いた。

「…、それでは無事にお会いできましたので、申し訳ありませんが審神者サン、こちらにサインをいただいても?」

 一連の動作?が落ち着いたところを見計らって、無事に迷子を主の審神者に送り届けたという旨の書類にサインを貰うのが規則なので、携帯端末を起動させて審神者さんの目の前に表示させる。

「あ、ハイ」

 申し訳なさそうな表情…は、狐の半面で見えないので雰囲気を漂わせながら、審神者さんは目の前に表示されている光の枠に慣れた調子で、所属国と審神者名を指で書いていく。

 ふむ。この審神者さんは、櫨(ハジ)さんというのか。

「…確かに。
 それではハジさん、三日月宗近サン、加洲清光サン…またお会いすることがないよう祈っていマス」

「…ちょっと待て」

 さっきハジさんのお陰で自由になった手を、再び三日月が掴んで引き留めた。

「……なんでショウ?」

「まだ、名前を聞いておらなんだな?」

 にっこりと、それでいて否定を認めないような笑みで、三日月の瞳が私を射貫いた。
 思わずゴクリと唾を飲み込み、

「そうですね、ワタシの事は迷子係の"お千"とでもお呼び下サイ」

「あい、わかった。
 それでは、お千…またな?

 私を射貫いていた瞳が三日月に歪み、笑みを作ったかと思うと…呆気なく、手が離れていった。
 …神の言葉には力があり、反故にすることは出来ない強い約束・言霊となる。というが、我等は付喪神。神の末端というのもおこがましい、ただ九十九年以上大事にされた刀。しかも、その分霊と呼ばれる劣化模造品とでもいえる存在…のハズ。
 たとえ力があったとしても、どこの誰ぞと知らぬ私においそれと使うような力ではない、ハズ。なんだけど。
 …今、何かが行われた……気がした。

 まさか、そんな、フラグとかあるわけないし。と軽く頭を振り、3人に頭を軽く下げ、事の顛末を書類に纏めるために事務所へと足を向けた。

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