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▼ Milk tea
今日は安室さんも梓さんも居る日で、安室さん目当てのお姉様方や梓さん目当てのおじ様方が沢山いらっしゃってて…テーブル席が空いてない。
わぁ、今日は大盛況だぁ〜。と一瞬笑顔を浮かべて開けたドアを閉めようとした…が、目敏く私に気がついたらしい(まぁ、ドアベル付いてるからなぁ…)安室さんが素敵な笑みを浮かべてドアを押さえていて、閉めることは叶わなかった。
「いらっしゃいませ。カウンターへどうぞ」
有無を言わさぬ態度で、今まで一度も座ったことのないカウンター席へ案内され、気がつけば座っていた。
…流石安室さん。出来る男である。
「今日もケーキセットでホットミルクティーですか?」
お水を差し出しながら安室さんにそう問われ、いつもの注文を覚えられたとか…常連の仲間入り!?と、テンションが上がった。
「あ、はい。お願いします」
上がったテンションを隠しつつ答えると、かしこまりました。と良い笑顔で厨房へと消えた安室さんの後頭部を見送った。
一方私の後頭部は、いいなぁ〜。といった感じのお姉様方からの視線がビシビシと刺さっている…気がする。
「あ、珍しいですね」
安室さんと入れ替わるように梓さんが厨房から現れたと同時に、思わずといった様子で声をかけられた。
それに驚きつつ、自分でも分かる曖昧な笑みを浮かべながら頷いて返す。
ちょっと首を傾げた梓さんは、私を少し見たあと手に持っていたコーヒーとハムサンドを手際よくお客さんに配膳していった。
ニコニコと笑顔で接客する梓さんを見た後、ケーキまだかなぁ。と厨房を凝視すると、安室さんが出てきた。
とはいっても私のケーキはまだだったらしく、私にニッコリ笑顔を向けただけで素通りして、テーブル席のOLと思われるお姉様方に配膳している。
お姉様方は非常に嬉しそうな表情で安室さんを見つめていて、見ているこっちがニヤニヤしてしまう。
配膳が終わった安室さんは、ついでに他のお客様方の皿を下げていて、その間に梓さんは新しく来たお客さんの接客をして…、とにかく二人とも忙しそうである。
「おまたせしました」
しばらくは時間がかかると思い、始めたスマホゲームにいつの間にか熱中していたようで、安室さんに声をかけられて驚き顔を上げた。
笑顔の安室さんに、恥ずかしさに顔が赤くなるのが分かる。
「あ、りがとうございます…」
「いえいえ。砂糖は3つでしたよね?」
さらに笑みを深くした安室さんは、シュガーポットから躊躇いもなく角砂糖を1つ、2つ…3つと砂糖をティーカップに入れると、紅茶を注いでくれた。
…なんだこの至れり尽くせりは!?
「すみません…ありがとうございます」
「こちらこそ。いつもご来店、ありがとうございます。
よろしければ、お名前を伺っても…?」
なんだこのイベントは!?と困惑しつつ、雨草です。と、なんとか返事をすることに成功した。
この日から、安室さんや梓さんに名前を呼ばれるようになるとは…思いもしなかった。
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