あおいそら

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01

 - 運河 -

 あれ?と思った。
 それが最初に感じた事だった。

 ぼんやり。

 ひたすらぼんやりと思考の渦から結論を出そうと試みる。

 ここはどこ?
 ――わからない。

 辺りを見回してみる。
 壁は鈍色(ニビイロ)で、煉瓦とはまた違う雰囲気の石造りの建築で日本とは違う建築美を醸し出している。

 ふと足元を見る。
 さっきまで家に居たのだから当然靴は履いていないわけで、石から伝わる温度で急に寒く感じた。
 思わず、ぶるり。と体を震わした。

 それにしてもここはまるで....

 ――思考はそこで止まった。

 多くの人がなだれ込み、私を囲って武器を突き付けたのだから。
 あぁ、これが四面楚歌か。なんて思ってしまった私は相当焦っているのだろうか。

 無意識に両手を上にあげ、呟く。

「え?」

 その後問答無用に引っ立てられた。
 この人たちは何者で、私をどうするつもりなのだろうか。

 私がわかった事、それは大変な事がすでにこの身に起こっている。ということだけだった。


▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 連れてこられた先は、さっきまで居た所とは比にならないくらいに豪華な場所で、正面にある段差の上には椅子がひとつ。
 その椅子には、優しそうな30台位の男性が。

 分析してみたものの、きっとここは玉座で、椅子に座っている方がここで一番偉い方なのだろう。
 玉座までの豪華な絨毯を挟むように立っている人は皆緑色の服を着ていて、お偉いさんも緑だった。

 きっと、お偉いさんが緑大好きなんだろうな。と思考が脇にそれたので修正。

 手を後ろで縛られたうえに、胸辺りからお腹辺りまで縄でぐるっぐるに巻かれている状態の私を連れてきたおっさんが背中を押して無理やり絨毯の上を歩かせる。
 皆厳しい表情で、視線が刺さる。


 玉座のある段差の数歩前で後ろのおっさんが頭をぐいっと押してきたので、思わず両膝をついた。
 何するんだよ。と思い顔を上げようとすると、頭を押された。

「何故、我が城に侵入したのか聞いていいだろうか」

 頭上から優しげな声が聞こえた。
 というより、此処は城だったのか。
 そしていつ私はどうやって侵入したんだ。

「すみません、私は侵入した覚えがないのですが....」

 そう言った途端に私を連れてきたおっさんが大声で罵倒しながら私を殴り倒した。
 縄でぐるっぐるなので受け身も取れず、床にぶつかった肩と殴られた頬が酷く痛かった。

「やめろ。…すまない、もう少し話を聞いていいだろうか?」

 顔をあげた瞬間にお偉いさんが殴ったおっさんを諌めた。
 その声は、大声ではないのによく通った声だった。

「私は…」

 信じてもらえるかどうか、なんて頭になかった。
 ただ、お偉いさんに魅せられた。その言葉に従いたくなった。それだけですべて話した。

 さっきまで、自宅にいた事。
 大学生で独り暮らしをしていた事。
 突然違うところにいて混乱していた時に囲まれて縛られて連れてこられた事。

 たぶん。
 信じたくないけれど。
 ここは私がいた時代じゃない、という事。

 全部、話した。
 お偉いさんは黙って聞いてくれた。
 殴ったおっさんや周りの人は騒いでたけれど、お偉いさんは最後に頷いて

「私はその話を信じようと思う」

 と、微笑んだ。


2013/10/28

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