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▼ あれが最後と…
あれが最後と知っていたなら、決して放しはしませんでした。
「行ってくる」
そう一言。
そのヒトコトが、私が聞いた貴方の最期のコトバでした。
よく晴れた空に鳥が…一羽、二羽。
戦の準備が整い、出立した貴方様の顔は決意に満ち溢れ、付き添う大谷様は何時ものように笑んでいらっしゃったけれど。
胸騒ぎが止まらなくて、思わず貴方様の手を握りしめる。
「クコ、心配するな。必ず家康の首を持ち帰り秀吉さまの御前に捧げる」
そう貴方様はうっすら笑って、頭を撫でて下さりました。
けれども、けれども。
「どうかご無事で。私は何より貴方様の帰りを待っております、どうか…」
こんなに、こんなにも不安になるなんて。
「泣くな、クコ。家康を残滅しすぐに戻る」
そう言って私の頬をそろりと撫でて離れて行った。
「どうか、どうかご無事でっ!」
貴方様は振り返ることなく「行ってくる」と仰ったけれど、私にはそれがまるで最終通知の様に聞こえてしまって。
涙があふれて止まらなかった。
そんな別れをして数日、貴方様は決して戻りませんでした。
どんなに待てども暮らせども。
貴方様のあの笑顔を見る事は、もうないのです。
2013/11/18
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