▼ 好きだから、つい
物心ついたときから私の小指には赤い糸が絡まっていた。
その糸を辿ると、なぜかおそ松の小指にたどり着く。
小さい頃は、運命の赤い糸だなんて思っていた事もあったけど…。
「邪魔なんだけど、どいてくれない?」
道路の端を歩いていたにもかかわらず、わざわざ私の前に立ちふさがっていちゃもんをつける。
コイツの常套句だ。
うつむき無言で左によけると、アイツも左に。
逆に右によけると、アイツも右に。
バスケのディフェンス?の用にしつこくガードしてくるおそ松に思わず顔を上げて睨付ける。
「何?」
「何じゃなくて、なんで私の邪魔してくるの!」
フィッと目線をそらしたおそ松に腹が立ってくる。
今まで何度糸をぶっちぎってやろうと思ったけど…実際切りたくても触れられないので物理的に無理だった。
それを思い出すだけで腹立たしい。
子供の頃から会うたび会うたび罵倒されて…どんだけ私のことが嫌いなの?と思う。
おかげで会わないようにする腕が上がってしまった。
なにせ、赤い糸の繋がる先にいるので、別の方向へいけば良いのだから。
それでも偶に会ってしまうのだから、運命とは残酷なものだと思う。
いや、運命とか信じてませんけど!
「は、何言ってんの?
邪魔なんてするわけねぇし!」
目線を盛大に泳がしながらプリプリ怒鳴りつけるおそ松に、あー、ハイハイ。と適当に返事して、スッとおそ松の隣を通り過ぎる。
「ちょっと待て、どこ行くの!」
「え、買い物だけど」
通り過ぎようとした瞬間、私の腕をガッシリと掴んできたおそ松をギョッと見つめると、慌てた様子で…お、俺もいく!とおそ松はどもりながら叫んだ。
予想外の出来事に思わず首をかしげてしまう。
「別に俺が一緒に行っても問題ないだろ!?」
ギッ!と真っ赤な顔で私を睨んだおそ松は、足音荒く歩きはじめた。
え?と思わず棒立ちしていると、付いてきていない事に気がついたのか…おそ松が振り返った。
「なにしてんだよ、ほら…行くぞ」
私の右上を見つめながら、ぶっきらぼうに左手を差し出したおそ松に…思わず右手を乗せてしまった。
その手を嬉しそうに握りしめたおそ松を見てしまい、何故だか急に恥ずかしくなって俯いた。
視界の端にうつった赤い糸が、一瞬光った…そんな気がした。
<< >>