▼ 時既に遅し
土下座に驚いた彼女を見て、また何か間違えた。と悟った。
「大丈夫ですから、座ってください!」
なにが大丈夫なのかわからないが、彼女が懇願するように言い放ったので、素直に座り直してティーカップを掴んで飲んだ。
大量の砂糖をジャリジャリと噛み砕きながら、そっと彼女の様子をうかがう。
彼女は、さっきのアレで絡んだ飼い猫とそっくりなふわふわの髪を手ぐしで梳かしつけながら溜め息をついた。
思わず溜め息が零れた桃色の唇を凝視してしまったのは男だから仕方ない、と思う。
「急にどうしたんですか?」
「…動揺しました」
もう一度土下座しそうになったけど、立ち上がった瞬間に彼女も立ち上がったので…なぜかお互い無言で数秒見つめ合って同時にイスに座り直した。
いい加減に居辛くなってきた頃、ひょいっと膝の上にアイツが乗ってきた。
ナイスタイミング!と思いながら、その背中をなでる。
「にゃーん」
「にゃにゃーん」
なぜか膝に乗ってきた彼女の猫も撫でると、ふわふわと柔らかい毛が手に当たって気持ちいい。
「…猫、お好きなんですね」
一人つぶやくような声に顔を上げると、柔らかく笑っている彼女が目に飛び込んできた。
あぁ、好きかもしれない。そう思った。
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