同棲後(結婚(笑)手前)



「卿は体の大きさを自覚しているのか?いくらうずくまろうがデカいものはデカい。」
「・・・家、入れてよ。」
「鍵はどうした。」
「・・・・・・なくした。」
「どこでなくした。場合によってはシリンダーを交換する必要がある。」
「サウロに、やってきた。おれの首がとれるように。」
「そうか。」

玄関が開く。アレクシスに続いて家に入ったクザンは強く廊下の壁に拳を振り払うように叩きつけ、穴の空いた壁に振り向く姿を睨みつけた

「怒らねえの。」
「そうだな。」
「怒れよ。」
「そういう気分ではない。」
「何でアレクシスさんまでっ!」
「卿には俺が平等精神を掲げる博愛主義者にでも見えているのか?俺がここで大事なのは卿だけだ。親友を手に掛けようが正義に疑問を抱こうが考古学者を逃がそうが、そうしたいと思ったかそれしか選択肢がなかったから分からないが、卿が行ったことならば肯定する。」

キッチンからいい匂いがする。朝から何も食べてない胃が早くそれをと訴える。クザンは堅物真面目な元上司がオハラの件で自分を庇ってくれたことも、真実を話し信頼の裏切りを謝罪したときに間髪入れず許してくれたことも思い出し、うなだれながら謝罪を口にした。匂いから察する料理はアレクシスの得意料理かつクザンの好物で仕込みに何時間もかかる、仕事の日に作れるはずのないものと分かったからだ

「休んだの、仕事。」
「事実上の最上級に昇格なんだ。祝うならそれくらいはしないとな。」
「・・・帰ってこなかったらどーするつもりだったのよ。」
「待っていたよ。ずっと。卿が戻るまでな。」

手に下げていた袋から取り出したものを手にして体ごと振り返った瞬間、パァン!と派手な音が鳴りクザンは頭から紙テープや紙吹雪を被る。ぱちくりと驚きながらみた先で、クラッカーを手にしている恋人が穏やかな笑みを浮かべているのを見て顔が熱くなった

「大将昇格おめでとう、クザン。」
「・・・ありがとう、ございます、」
「遂に軍の最高戦力か。ここでは上級大将の階がないからな、俺はどうも違和感しかないが。」

くるくると巻き取られ回収された紙テープは空のクラッカーと共にゴミ箱へ。すぐに並べるよと手を洗い鍋を火にかけたアレクシスは後ろから抱き締められ手を洗うよう腹に回る手へ触れた

「好きです、アレクシスさん。」
「ああ。俺も好きだよ、クザン。」
「あらら、珍しい。」
「偶にはな。」

首筋に顔を埋めたクザンは少し汗ばむ肌に舌を這わせ、甘噛みしてから吸いつく。チクりチクりと痛みを感じ、それがマーキングだと知るアレクシスは優しく自分を捕まえる冷えた腕を撫でた

「・・・ねえ、アレクシスさん。」
「何だ。」
「おれの副官になってよ。」
「俺にも部下がいる。」
「知ってるよ。先輩たちはちゃんとどうにかするからさ・・・おれァただ、そばにいてほしいだけだ。」
「仕事に関しては、俺は上からの命令に従うだけだ。」
「あらら、冷てェじゃねーの。」

くるりと腕の中で振り返ったアレクシスはクザンをハグし、動揺する姿に小さく笑う。焦ったような声に上を見れば、困ったような眉を下げる顔にクスッと目を眇めた

「笑うときはおれを見てって言ってんでしょーが!」
「もったいない?」
「アレクシスさんおれが見えないようにいっつも笑うじゃねーの、寂しいのよおれ。もっとたくさん色んな顔見せてよ。」
「卿は贅沢だな。」
「欲深いのよ、おれは。ようやく人事に口出しできるようになったんだ、もっと束縛しますよ。」

なんという大胆な宣言か。関心していたアレクシスは強く抱き締め返され、泣きそうな声に目を伏せる

「でも、意見を無視したいわけじゃねえのよ・・・」
「分かっている。卿は、軍に属するには優しすぎる。一言加えればいいだけだ。命令だ、とな。」
「・・・アレクシス、中将。」
「はい。」

二人は一歩ずつ下がり距離をあけた。いつもの無表情で見上げてくる姿に、クザンはぐっと拳を握り至極真面目な顔で声を発する。意にそぐわない異動はやる気を削ぐものだ。だから、したくないというのに

「大将付けの副官に配属を命ずる。・・・大将直々の命令ね。」
「不肖アレクシス、誠心誠意尽くさせていただきます。」

未だに問題児の受け皿となっているアレクシスの隊は些か特殊だ。サカズキ、ボルサリーノ、クザンときてから、最近はスモーカーだろうか、アレクシスの隊に所属し隊から離れ海兵を続けているのは
大概が軍を辞め、残った大半が異動を拒みアレクシスの隊に居続けごく一部がクザンのようにその実力を遺憾なく発揮できる隊へ異動できている。そんな役割のアレクシスの隊を、クザンは解体しようというのだ

「おれ、・・・やっぱりいいです。やめときます。」
「何がだ。」
「何がって、アレクシスさんの異動を、」
「止めるのか。俺は嬉しいのだがな。」
「嬉、しい・・・?ほ、ホントに?」
「嘘は言わない。卿が考えるよりずっと、俺は卿が好きだよ。だが、どうにも俺は融通がきかなくてな、命令がなければ動けぬのだ。」
「っ、やば、泣きそう・・・」
「泣くな。卿は俺の上司になるのだろう?ならば毅然としていろ。フォローは全て俺が承る。」

ほら食事にしよう。優しげな顔をしたアレクシスはクザンの背をたたき、手伝ってくれるかと笑みを浮かべた

「・・・おれへの祝いなのに?」
「細かいことを気にするなよ、大将殿。」
「あらら、アレクシスさんがそんなセリフが聞けるとはな。」



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