宿命論とでも
「お前の本分を、決して忘れるな。」
「はい。心得ております、父上。」

くノ一長屋には、唯一桃色の装束を免除されている忍びのたまごがいる。そこらの忍たまより背が高く笑うと爽やかな風が吹き抜けるように、そしてほんのりシャープな目元と日に程よく焼けた健康的な肌色
正統派好青年であるその人は、れっきとしたおなごである


「ただいま戻りました、シナ先生。…今日は若い日なのですね、相変わらず美しい。」
「あら、ありがとう。生家の皆様はご息災で?」
「はい。父上からシナ先生へ土産を預かっております。」

月に一度実家へと泊で帰省する**は、戻ったことを伝える度に自分の選んだ手土産をシナへ渡すのだ
特別にと忍たまの四年と同じ紫色の装束を纏わせてもらっている**の齢は15になる
花も恥じらう乙女な年など関係なく、**は鍛え上げた筋肉と潰した胸で堂々と男言葉を使うのだ

「あらまぁ、相変わらずお父様は趣味がよろしいのね。」
「伝えておきます。」
「ですが流石にこう毎回頂くと申し訳ないわね。」

そういわずに受け取って下さいと苦笑して静かに包みをあけたまま床に置かれる櫛を手に取り、**はシナの手をすくいあげそこへ手渡す
親御さんからの土産にしてはシナ好みで、好意の贈り物にしては随分と高価だ。それらの指摘を一切せずにシナが受け取るのは、**がシナをみる目を分かっているからに他ならない

「では受け取らせていただくわ。…私の好みよ、この櫛。」
「本当ですか…!よかった。」

喜ぶ姿もおなごには程遠く、では失礼しましたとにこやかに向ける仕草に欠片も隙のない**は、シナの自慢の生徒だ
だから全て、知らぬふりで押し通す優しさで接している。それが本物の優しさかと問われれば、そこは議論の余地ありだ

シナの部屋から出た**はすれ違う下級生に軽く手をふり微笑みを浮かべる。生まれたときから父を手本にと教育され、あと一月たたずに家業にどっぷりと漬かりにいく準備を怠らない**にとって、懐いてくれる下級生はふとした息抜きだ
だが**はくノたまではないため男子禁制のくノ一長屋には授業関連でしか滞在を(自分自身で)許可しておらず、かといって忍たま長屋に身を置くわけにもいかず、どっちつかずの身の置き場としてシナの部屋や学園長の庵を含む職員長屋が**の居場所である。自室は一応くノ一長屋にあるが

「斜堂先生、少しお時間いただけませんか。」
「いいですよ、#name2#くん。」
「ありがとうございます。」

中でも馴染みのある部屋は斜堂の自室。**を一人の男子として扱ってくれる斜堂は、**にとって安心できる存在だ
そう、**はおなごに生まれ男子として生きることを定められた、とある家の跡継ぎである。きょうだいはおろか母を生まれの日に亡くした**に逆らうことは許されず、実際初潮を迎えてはじめて自分が男子ではないと知った

「また山本先生にふられましたか?」
「語弊があります。一つ、想いは告げてません。二つ、私は女です。三つ、シナ先生は私の恩師です。よって、私とシナ先生の関係は生徒と教師のまま、未来永劫交わることなく終わるのです。」
「君が女だというのを忘れていましたよ。」
「ありがとうございます。」

しかし見事な男装ですねと感心する斜堂に生まれつきですからと特に表情を変えずに返して、**は斜堂先生にお土産ですと真っ白な手拭いを複数枚手渡した
肌にひっかからず滑らかに触れる手拭いに、斜堂はいただけませんよとため息をつく

「高価なものはお嫌いだとおっしゃられたので、今回は配慮しておりますが…」
「限度を知りませんからね、#name2#くんは。」

そうでしょうかと考える**は家業の直系本家の跡取りで許嫁までいる身。一般的な金銭感覚ではいられないのは仕方ない、お陰で一年は組のしんべヱとは話が大分合うようだが

「そういえば、今回は長かったですね。」
「ああ、はい。結納の儀を執り行ってきました。これで、私は後戻りできなくなりましたよ。」
「一度くらい、告げてもいいと思いますけどね。」
「元々好きになってはいけない方を好きになってしまったのが問題であって、告げるなど論外です。」

そうですか。そう静かに目を伏せた斜堂に、**はそうですよ。と笑った。溌剌と、爽やかに




「ほほほほ、**ちゃんが卒業すると、寂しくなりますね。」
「最上級生は私だけですが、五年生が数人いるので来年は一気に寂しくなりますよ。」
「人数は関係ありませんよ。」
「そういっていただけると、嬉しいものですね。」

おばあちゃんの姿のシナにも変わらぬ対応をする**は、今日でくノ一長屋唯一の最上級生として忍術学園を卒業する
笠を被り男物の着物を纏う**の荷物は財布と護身用の刃物のみ、他のものは前日に全て後輩にあげ可能なら燃やし尽くしていた

「では、お元気で…シナ先生。」
「**ちゃんも元気でやるんですよ。」
「はい。」

一歩下がった**が地面を蹴りその場から消えた




宿命論とでも




どのくらい月日が経っただろうか
くノ一の生徒たちと買い物に出たシナは、乙女らしく雑貨屋で目を輝かせる生徒たちからふと目をそらした先にある人たちに自然と目がいく
小柄な女性でふっくらとした赤子を抱いていた。周りには町人に紛れて数人の護衛がいる、どこかの屋敷のご息女か?けれど、女性の隣でぐずりだした赤子の頬を優しく撫でる男性を見て固まった
変姿の術に長け長年指導者として接してきたシナにはわかる、男性は紛れもなく**である
背丈も胸のサイズも男装に有利であったのは確かだが、袖から覗く一の腕や首の線までもが男を匂わせるその姿
なにより傍らに赤子を連れた妻らしき存在までいれば、なぜシナに遠目からでも分かったのかが寧ろ不思議だ

「…!」

赤子について妻と笑い合った**がふと視線をあげシナをみつけ、しーっと指を唇に近づけ完璧な男装に似合うそれでも美しさを併せた綺麗な笑みを浮かべる
それはシナにとって例えようもなく衝撃的で、**が空を見上げ帰ろうと妻の腰を抱いて行ってしまうのを完全に見送りふっとその衝撃は心を包んで消えた

「山本シナ先生!先生にこれ絶対似合うと思います!」
「…ええ、ありがとう。でも今日はあなた達の付き添いよ?あなた達が必要なものを慎重に選びなさい。」
「あ、そうですよね!それに、スッゴく綺麗な櫛、山本シナ先生持っていますもんね。」

失礼しましたーとまた雑貨屋に紛れた生徒を見送り、シナは慌てて路地に入ると通りに背を向け息を吐いた

歪んだ視界は瞬きをしても意味はなく、次々に溢れ出る水分にシナはダメね、と小さく呟いた




<あとがき>


こんにちは、管理人の星川です。

山本シナ先生と男に生まれなければいけなかった夢主の、切夢(?)!

初☆山本シナ先生夢。初☆斜堂先生登場。斜堂先生ってこんなであってます?なんだかバッチい発言過多な覚えはあるんですが(だから手拭い。)。

いかがでしたでしょうか?

お持ち帰り、書き直し要請は館様のみとさせていただきます。



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