5‐2
- ナノ -


5‐2


 すべての始まりは、「自分を認めてもらい、生きる意味を確証したい」という私の心にありました。
 勉強、人を受け入れることなど、その心を満たすために使われたものはいろいろありましたが、その中で一番強い力を持っていたのが「作家になる」という夢です。
 この夢を見つけたとき、はじめは何も思わず、何も気付かず、ただわくわくしていただけでした。
 けれども何年か経つにつれて、その夢や、書くということにもやもやとしたものを感じるようになっていきました。
 私が、ひたすら見て見ぬふりをしてきたその正体。
 それが、ただ人に認めてもらうためだけに何かをやっているという後ろめたさでした。私の場合、それが夢や書くことに特にはっきりと現れたのです。
「誰かを元気づけたい」
 そんな理由を口にしながらも、結局私は、自分の文章を自分のためだけに書いてきたのでしょう。
 言ってみれば、私が書いたものは「自分を認めてほしい」「分かってほしい」という悲鳴だったのです。そんな文章だから、私はなかなか最後まで作品を書きあげられなかったのだと思います。
 プロット、根気強さ、集中力……
 どれも作品を書き上げるには必要なものですが、一番大事なのは、
「これを誰かに伝えたい」
「この言葉を誰かに伝えたい」
というその強い思いなのだと、私はやっと分かったのです。
 書いた文章が晴れやかに感じられたり、作品を完成できるようになったのは、少しずつこういう気持ちを持って書くことに向かい合えるようになってきたからなのだと思います。
 それから、「作家になる」という夢が心から離れたのは、もう人に夢の力で自分を認めさせたり、かりそめの居場所を求めたりする必要がなくなり始めたからではないかと、私は思いました。
 



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