- ナノ -


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 確かに桜はきれいだけどさ、と彼女は竜に言った。私は、椿の方が好き。散るときも、散ったあとも、そのままの花の形を凛と留めているから。
 落椿は道を明るく照らしている。ひとつひとつの花が誇りをその身に宿しているようだった。彼女のことを思い返しながら、木々の中で、竜はしばらくその光景を見ていた。


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