- ナノ -


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 降り頻る雪は、音を吸い取るようだった。この雪では空を飛ぶことができない。竜は白い大地に降り立つと、風を凌げる崖の下の窪みに身を伏せた。
 昔、吹雪の中で動けなくなっていた人の子を、翼の内側に入れて助けたことがある。子は寒さをなんとか耐え抜いた。雪が止み、弱りながらも子が見せた笑顔を、竜は忘れない。
 音のない世界に、あのときの子の声が聞こえた気がして、竜は目を伏せた。


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