- ナノ -


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 彼の家に伝わる家紋には、翼を持つ凛々しい竜が刻まれていた。祖先はとある竜と縁があり、竜が外の世界へ旅立つまで、代々生活を共にしていたという。感謝と親愛を込め、その竜の姿を一族の紋にしたとは言われているが、と彼はひとり呟く。伝説にすぎないだろうな。
 窓の外では空が明るく冴え渡っている。そこに、竜の影はひとつとして見当たらない。


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