- ナノ -


361

 もう秋の虫の声がするよ、と彼。夜闇に耳を澄ませてみれば、ちりちり、りんりん、とたしかに聞こえてくる。まるで歌ってるみたいだよね、との彼の言葉に、竜は頷いて言う。竜も歌うことはあるのだが、秋の虫たちには絶対に敵わないだろうな。
 それはそれで、君たちの歌も聴いてみたいんだけど、と彼は笑う。竜は少し照れ臭そうに、そう滅多に披露するものでもないのだ、と頭を掻いた。


[ ]