- ナノ -


355

 彼は思わず目を擦った。こんな海の真ん中に蝶が飛んでいるなんて、あり得るのだろうか。だが、それはどう見ても蝶であった。しかも複数いる。背の上の人間が驚いているのを感じ取って、竜は言った。斑蝶の一種だ。海を渡って別の場所へゆく。
 蝶たちはまるで、臆することを知らないかのようだ。竜は羽ばたきに彼らを巻き込まないよう、注意しながらゆっくりと飛び、蝶たちを見送った。


[ ]