- ナノ -


301

 もしあのまま、旅に出ず、人の街に留まっていたなら。竜は時折考える。いまとは違う出会いがあったかもしれない。移り変わってゆく街を見守ることができたかもしれない。けれども。街を越えて続いていく道の先も、空の向こうも、知らないままだっただろう。竜にはどちらが正しかったかはわからない。ただ、後悔はなかった。


[ ]