- ナノ -


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 おぼろな月の光に照らされながら、いつか彼女は言った。どうせ散るとわかっていながら、どうして花は咲くのでしょう。いまはもう、隣にいない彼女にたむけるように、竜は呟く。散るからこそ、咲きほこるのだろう。きっと。月明かりを纏った桜の花びらが銀の風となり、夜空を吹き抜けていった。


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