- ナノ -


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 外は香ばしい、ぱりっとした歯応え。しかし中は、そんな外側からは想像もつかないほどにふわりとやわらかい。よく味わえばほんのりと素朴な甘やかさが伝わってくる。竜は目を瞬かせた。これが、人の食べるパンというものなのか。他にもいろんなパンがあるんだよ、とその人間はにっこりした。果物を乗せたパン、きのみを混ぜこんだパン、チーズを溶かしたパン……。竜の腹が思わずぎゅっと鳴いた。にやり、と人間が笑う。ね、ちょっとうちで働かない? パンをお客さんに運ぶの手伝ってくれたら、お礼に毎日、いろんなパンをあげちゃうからさ。
 そこで、その街では竜のパン屋が誕生することになった。人からすればずいぶん長い間、街を賑わせ、竜はおいしいパンをほくほく顔で食べていたそうだ。
 

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