- ナノ -


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 湿り気を帯びていた熱風は、このごろ、すっかりその勢いをなくしている。空気はさらりと渇いて、少し肌寒さを覚えるくらいだ。竜が砂浜で海を眺めていると、人の子が彼に向かって手を差し出した。何かが乗っている。よく見ると、それはちいさな巻貝であった。これ、あげる。そう言って竜の前に貝を置いた子どもは、そのままどこかへ駆けていった。
 夏の忘れがたみのようなその貝殻を、竜は爪の先でやさしくなでた。


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