- ナノ -


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 あ、また寝てる! そう言って彼女は、竜に絵筆をびしりと突きつけた。竜は気だるげに顔を上げ、長い、とぼやく。絵はね、すぐに描けるもんじゃないんだから、と頬を膨らませる彼女。聞こえたのか聞こえていないのか、竜はまた船を漕ぎ始めた。あきれたように首を振る彼女だったが、それからふと、何かを思いついたようににやりと笑う。しばらく経ったある日、彼女が竜に見せた絵は、二枚。凛とした佇まいの竜と、ぐっすり眠る竜の絵だ。寝ているところまで描いたのか、と少し恥ずかしそうな竜に、かわいいでしょ、と彼女は満面の笑みを浮かべた。


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