私は夜型だから


「…おはようございます」

眠い目を擦って彼女が起きて来た。幼い少女のように枕を引き摺りながらソファに座るその様子はまるで休日の朝のような錯覚を起こさせる。

果たして空は濃紺なのである。そしてぼんやりと出ている月は東の方にある。僕はもう寝る時間なのだけれど。

「俺、寝るけど」

「え、やだ」

パソコンの画面を睨む様に見つめながら眼鏡を掛ける。彼女には似合わない大きな黒縁の眼鏡。やっぱり僕の勧めた赤い眼鏡の方が似合ってたんじゃないかな。いつもは愛らしい目が歪んで怖くなっている。いや怖いのは今に始まったことではないけれど。ああ、勿体無い。

「じゃあ、ここで寝る?」

「そうして」

ノートパソコンを手にし、あぐらをかいた僕の脚に乗る。この状態でどうやって寝ればいいのだろうか。それとも暗に寝るなと言っているのであろうか。態度の割に小さい彼女は僕の中でさらに小さくなってパソコンを打ち始める。カタカタという音が心地よくてうとうとしてしまう。



「まだ寝てたの」

「え?」

眠い目を擦ってまだぼやける空中を見た。買い物袋を持った彼女は半ば呆れたような口調だ。机には“お買い物“とだけ書かれたチラシの切れ端が置いてある。それを一瞥し「不毛だったわ」の声。

果たして空は群青なのである。そしてぼんやりと出ている月ーはなかった。雲に隠れてしまったのかそれとも地平線の下に隠れてしまったのか。もうそんな時間か。朝ごはんの仕度をしなくては。はっきりとした視界で足元を確認し、立ち上がる。立ち上がった瞬間、膝から崩れ落ちた。

「何やってるの」

「…痺れた、超痛い」

冷たい言葉を躊躇いなく言い放つ彼女は笑っている。

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