いつかの群青

きぃん、と鈍い金属音が響き、弾いた刀が地面に転がる。まだまだだな、と笑ってやると反動で尻餅をついたそいつは心底悔しそうに歯を食い縛った。もう一度お願いしますっ、と無我夢中で剣を拾い上げるその拳はまだ小さい。勿論、一年坊主相手に最上級生である六年の私が本気を出す訳が無く、ハンデとして此方は苦無での応戦となっている。それでも情けで勝たせてやる程私は優しくないし、戦は甘くない。再び、刀が宙を舞い、小さな身体がどてんと音を立てて地面に転がった。遂にその瞳からは堪えた涙がぼろぼろと溢れ、ああほら泣くな、と私はそいつの頭を撫でる。強くなる為にも厳しく指導せねばと思いつつ、まだ幼い内くらい何も知らないままで笑わせてやったっていいじゃないかとつい甘やかしてやりたくなってしまう。嗚咽の合間に、僕だっていつか貴方を倒して見せますから!と、ぐしゃぐしゃの泣き顔が随分と頼もしいことを言ってくれた。いつか見違える程大きく逞しくなったこいつに、地に投げ出された私は、空の青さを教えられるのだろうか。

「…そいつは、楽しみだなぁ」

数年後、数十年後、それは一体何時になるのだろうね。手を差し伸べればそいつは、さっきまでの泣き顔が嘘のような眩しい笑顔で此方を見上げる。その澄んだ大きな瞳が私を映した。ずっと小さく柔らかい手のひらがぎゅうと私の右手を握る。

「よいしょっ!」

思い切り引っ張ったその身体が思ったよりもずっと軽かったのか、私の力が強すぎたのか。小さな身体が宙に浮き上がり、有り余った力でそのまま勢いよく後ろへひっくり返った。金吾は私の胸の上にどさりと倒れ込む。幸い、怪我は無かったようだ。

「いててて………ははっ」

あぁ、空は青いなあ。私はもう、知ってしまったよ。

私につられてくすくすと笑うまだ幼い子供の声が、地面に寝転んだままの腹の上から高らかに響いた。

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