おおきくなあれ

※三年

そいつはとにかく好奇心旺盛で、一度興味を示してしまえば納得がいく答えを手に入れるまで気が済まない。その相手をするのは中々大変で、今だってそいつは期待に満ちた目をきらきらと輝かせながら僕をじっと見つめている。

「…なに、団蔵」

「だから何度も言ってるだろっ!」

ずい、とその顔が更に近くなる。何でもそいつは、口吸いとはどんなものなのかが知りたいらしい。だからって、なんで僕に。やんわり断ろうとその肩を押し返す。今にもぶつかりそうだった顔が離れた。


「お前には十年はや……」


そう言い終える前に、そいつは僕の手を引き、そのままそこに口づけた。ちゅ、と触れて離れるだけの短い口づけ、唇が触れたところがじわりと熱くなる。

「…へへっ!」


してやったり、とでも言いたげにそいつは満足そうに笑う。可愛い顔して、なんて奴だ。ていうか、何処でそんなこと覚えてきたんだ。悔しいのか何なのか、なんだかよくわかない感情が無邪気な笑顔を前にぐるぐると駆け巡る。


「…調子に乗るな」

「痛ぁっ!」

叩くことないだろ、と頭を擦りながらそいつはきゃんきゃん喚く。
どんとそいつは体当たりで僕の胸元に飛び込む。渋々両腕でその体を抱き寄せると、ふふと楽しそうな笑い声が胸元から聞こえた。


「十年後、みてろよ!」


十年後、僕らはどうしているだろう。傍にいる補償など、何処にも無い。


「…まぁ、楽しみにしといてあげるよ」


けれど、僕に向けられたその笑顔が余りに眩しいものだから、曖昧な返事をして僕も笑い返す。


「…おうっ!」


手の甲に口づけ、いつか迎えに来るよという小さな約束のようだった。


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王子が姫に跪いて手の甲に口づけする、そんなイメージです。しかしこの二人は女王様と騎士の方があってるかも。


二人ともまだお互いのことを意識し出したばかり。

団蔵は無自覚な男前だったらいいね!

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