小噺参

【平と田村】この口は面白いように汚ならしい暴言を意図も容易く次々と吐き続ける。止まれと叫ぶ心の声とは裏腹に、耳に響き続けるのは、自分自身の醜い声。目の前の君は、私の望まない顔をしていた。違う、そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。肝心な想いほど、声になってはくれない。言葉など、ない方がいい。誰かを傷つけてしまう棘にしかならないのなら、生まれ落ちるその瞬間、私の喉に突き刺さってしまえばよかったのに。ああ、ほら、また。

//不器用

【七松と平】愛しい両腕が差し出され、私の身体を力強く抱き寄せる。何処にも行ってくれるなよ、と耳元で囁く貴方の声は震えている。何を今更、と私は苦笑いで肩を竦めた。何処にも行く筈無いでしょう。貴方は、私の全てなのだから。そう言えば貴方はそうだったなといつものように笑い、私の髪を撫でた。…さて、そんな話をしたのは、一体何時のことだったか。その数日後、貴方は遠い山奥で独り死んだのだ。何処にも行くなと私に言った貴方が、私を置いて逝ったのだ。私を、貴方なくしては生きていけないようにしたのも貴方だと言うのに。身勝手な人だ、と恨むことができないのは、私は貴方という人間を誰よりも深く知り、そんな貴方を誰よりも深く愛したからだろうか。燻る日々に終わりはまだ見えない。

//捨て児

【七松と体育】全身の血が体内を熱く駆け巡る。血の匂いにざわりと鳥肌がたち、思わず口許がにやりと歪む。何処からか漂う死臭に堪らなく興奮を覚え、心臓が剥き出しにされたようにどくどくと激しく脈打つ。ふふと小さく笑い声を漏らし、身震いした。ふと、学園で帰りを待つ後輩たちの姿を思い出す。私が生きて帰りたいと思わせてくれる、唯一この世に残す未練。…お願いだからお前らだけは、変わらず私を迎えておくれよ。闇夜に溶けた呟きは、きっと誰にも届きはしない。さあ、今夜も楽しくなりそうだ。

//獣道

【綾部と滝】薄暗い部屋、泣いてるの、と背中合わせに腰掛ける君に問う。表情は見えない。何の根拠もない。微かに触れる肩が震えているような気がして、ただなんとなく。どうせ、つまらない喧嘩でもしたんだろう、愛しの彼と。沈黙に一つ溜め息を吐けば、暫くして泣いてるわけないだろう、と精一杯いつも通りを演技する鼻声。後ろを振り返れば長い髪の合間から覗いた君の目が驚いたように開かれる。ほら、だれかさんみたいに真っ赤な。

//赤い目四つ

【三反田】擦れ違う人影は僕だけそこに置いてゆく。ねえ、と絞り出した声は、誰かの笑う声に掻き消された。一人道端に立ち尽くしても、肩一つぶつからない。誰にもみえてないのかなぁ。そうだ、もしかしたら僕は透明人間になっちゃったのかもしれない。太陽に翳した右手、真っ赤に流れる僕の血潮に、ああまだここにいるのかぁと一人苦笑いした暑いあの夏の日。

//盲目

【平と田村】私のように美しい、汚れない純白の雪が好きだ、といつかの君の言葉を思い出した。想いは深々と降り積もるばかりで、溶けて消える術をどうやら知らないらしい。じわりと胸の奥を凍らせた、氷柱は刺さったまま。忘れられないな、まだ愛しくて。さよなら出来ないな、まだ恋しくて。

//未練の結晶

【三反田】最初は他人、一言話せば友達。そうして、みんな仲良し。そんな都合の良いことを、みんなよく言いますが実際は。次会えばどちらさま?最後は他人。そうしてね、忘れていくのです。みんなにとって、とても簡単なことなのです。そしてそれは、みんなにとってどうでもいい現実なのです。ねえ、みんな。僕ひとり消えた世界は、それはそれは美しいのでしょうね。

//みんなのせかい

【不破と鉢屋】寂しくなったら憎んでくれ。会いたくなったら忘れてくれ。愛しくなったら恨んでくれ。悲しくなったら呪ってくれ。視線を逸らしたまま一息で吐き出した君は、そこで初めて俯く顔を上げてふっと小さく笑い、最後にこう言った。私が死んだら、笑ってくれ。そう言って君は学園を去った。きっと死んでしまったのだと、僕にもわかった。馬鹿、笑えないよ、嘘吐き。

//天邪鬼

【浦風と三反田】実習を終え忍術学園へと続く帰り道の途中。隣を歩く数馬の右手が、俺の左手に触れた。あ、と声を漏らして引っ込められるその腕を引く。驚いたようにこちらを見つめる澄んだ瞳に笑いかける。ね、手を繋ごうか。数馬は頷いて小さく笑った。指先から伝わる互いの体温から、確かに伝わる互いの存在。大丈夫、君はここにいるよ。そう言えば君は笑ってくれるかな。優しい君のことだ、きっと、泣いてしまうだろうな。会話は、途切れたままで。

//温もり

【久々知と尾浜】静かだなぁ、と叢に横たわる彼が呟いた。初夏の風が前髪を揺らす。くすくすと囁くような彼の笑い声はいつしか消え失せ、代わりにすぅすぅと浅い呼吸が聞こえる。勘ちゃん、と頬を撫でれば、うぅんと唸って薄く目を開ける。今日は温かいなぁ、と呟いた彼は眩しい陽の光に目を瞑る。勘ちゃん、と呼ぶ声が震える。なぁに、と彼は瞼を綴じたままでふわりと微笑んだ。なあ、頼むから、「まだ、死なないでくれ…っ」彼の忍装束の下腹部は、彼自身の血でべっとりと濡れていた。ああ、と囁く彼の声を、其処に刺さったままの短刀が静かに飲み込んだ。

//転寝

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