兵団兵詰め

【加藤と笹山】※六年
強くなりたい。大切なもの、全部守れるように。何かを無くす度口にするそいつの言葉に、僕は返事を返さない。団蔵、お前はね、大切なものが多すぎるんだよ。両手一杯に抱えれば、一つや二つ溢れ落ちてしまうのも、仕方がないのに。優しくて欲張りなお前のことだ、きっと誰より苦しいだろう。目の前の死体を見つめ、そいつは涙を溢す。強くなりたい。大切なもの、全部守れるように。何かを無くす度口にするそいつの言葉に、僕は返事を返せない。一つ、また落ちた。

//強く 優しく

【加藤と笹山】※卒業後・戦忍
好きだよ、兵太夫。誰よりお前を愛してる。…知ってる。そう言って微笑む兵太夫は震える両腕を伸ばして団蔵の首に回し、その耳元で何かをそっと囁く。ぷつりと糸が切れたように力が抜けたその躯を強く抱き締めて、団蔵は涙を流した。「…約束、だからな…!」

生まれ変われるなら、きっと綺麗な女に生まれてくるから…そしたらずっと、一緒にいよう。

彼の最期の言葉を思い出す。兵太夫、僕が誰より綺麗だと思った男のこと、きっと君は知らないままなんだろ。返事をしない彼は、それは美しい死に顔をしていた。

二人が出会って結ばれるのは、遠い未来の話。

【笹山と加藤】困った時には髪を弄るのとか、照れ臭い時には話を逸らすのとか。ねぇ、団蔵。君は気づいてないでしょ。君が知らない君を、僕はこんなに知ってるよ。みんなに話すのはなんだか勿体ないから、僕だけの秘密。勿論、君にも内緒だよ。

//誇らしく いじらしく

【笹山と加藤】「へーだゆーごめんってばぁ!」背を向ける兵太夫を振り向かそうと、団蔵は必死に謝り続ける。「…あのさぁ、何で僕が怒ってるのかわかってるわけ?」こんな時の兵太夫の言葉には刺がある。「うっ…わ、わかんない」「ほらぁ」馬鹿旦那、サイテー。その言葉と同時に、額に強烈なデコピンを一発。「痛〜っ何すんだへーだ…」顔を覆って痛みに悶える団蔵。「ゆ、う…」次目を開いて見えたのは、いつものように悪戯っぽい笑みを浮かべた兵太夫だった。「仕方ないなぁ、これで許してあげるよ」

//素っ気なく 態とらしく

【加藤と笹山】※卒業後
俺ね、兵太夫の目が好きだよ。真っ直ぐで、強くて、優しい瞳の色が好き。ねぇ、いつだったか君はそう言って笑ってくれたよね。そんな愛しい君に、もしもまた会えたなら。ねぇ、片方無くしてしまった僕でも、君は笑ってくれますか。好きだと言ってくれますか。右の眼から流れた涙と共に、左の眼を覆う真っ白な包帯がはらりとほどけた。

//懐かしく 止めどなく

【加藤と笹山】愛想よく振る舞うのは苦手だった。愛嬌のある笑顔の作り方なんて、わからなかった。誰かをからかったり苛めたりする時は、あんなに簡単に笑えるのに。素敵な笑顔は、どこにあるのだろう。例えば、いつも眩しい笑顔の、あの子みたいになれたら。「いいよね団蔵は、へらへら笑ってるだけでチヤホヤされるんだからさぁ」下らない嫉妬、八つ当たり。本当、可愛くない。僕の大好きなあの子の笑顔まで、僕の言葉で歪んでしまった。

//酷く 醜く

【加藤と笹山】※卒業後
叶うのなら、君の死に顔に一目会いたかった。許されるなら、君の冷たくなった頬に触れたかった。届かなくても、愛してると囁きたかった。生き返ってくれなんて馬鹿げた我儘は言わないから、どうかさよならを言う時間だけは。それすら叶わず、一通の文が人伝に君の死を報せた。

//遠く 虚しく

【笹山と加藤】※卒業後・戦忍
冷たい目をした彼が笑う。この世界を呪った人の、酷く理不尽な復讐。「これからね、きっと戦が始まるよ」彼は、戦争を望んでいる。仲間に裏切られ死んだ友の弔い合戦、巧みな話術で二つの城を仲違いさせたのだ。「全て間違っている、一度全て無くなればいい。そこから正しい世界を創るのさ」憎しみは尽きない。壊れてしまった君の螺は、君を正しく動かさない。

//脆く 悲しく

【笹山と加藤】「だんぞー!だんぞーってばぁ」ぐちゃぐちゃの洗濯物に埋もれるように丸まって眠るその身体を揺する。今日は町にからくりの材料集めに行くの付き合ってくれるって言ったのに、と兵太夫は口を尖らせる。委員会で徹夜続きだったらしいそいつは、叩いてもつねっても起きない。「ふんっ三ちゃんと行くからいいよーだ!」団蔵の耳元でそう言って廊下を駆けていく兵太夫。「…ま、今日くらい寝かせてやるか!」その足取りは軽く、何処か楽しそうだった。

//仕方なく 然り気なく

【笹山と加藤】※戦忍、敵同士
殺せ、とそいつは言った。殺さない、と俺は言った。深い山奥、俺達は睨み合う。足元に転がるそいつの躯は既に右半身の自由が利かないらしかった。「どうした殺せ!殺せよ!」そいつは猶喚く。死にたくないと、俺にはそう聞こえた。だから殺さない。殺せない。「…救ったつもりか!殺せ!殺せ!この…臆病者!」確かにそうだ、臆病者だ。愛しい君を、どうして俺が殺せるだろうか。「殺せ…殺せよ…殺してくれ…っ」それ以上は、最早声にはならず嗚咽が漏れる。俺はそのまま背を向けて歩き出した。咽び泣く声が背を貫いて、血も流れないというのにこの胸は酷く痛んだ。

//重く 響く

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