ノスタルジア

晴れた、晴れた、冬の空。濡れた赤髪、白い八重歯。初めて聞いたその子の声、全てはそこから始まった。

咲いた、咲いた、桜の花。淡い桃色抱き締めて。風に舞う花弁、少しだけ立ち止まる。

凪いだ、凪いだ、夏の風。自転車漕いで、走る二人。あの橋から見た景色を、今日も忘れない。

落ちた、落ちた、烏天狗の実。靴底汚した紅い汁。生命は枯れ今、一つの出会いが生まれる。

凪いだ、凪いだ、冬の風。それぞれのスピードで、走る五人。あの橋から見た景色を、明日も忘れない。

落ちた、落ちた、水の底。息継ぎを忘れ、恐怖を覚えた。錆び付いた鉛の手足、もう泳げない。

揺れた、揺れた、水の青。枷が千切れた手足、繋いだのは絆。蘇る感覚、自由への解放。あの日見た景色を、ずっと忘れない。

咲いた、咲いた、桜の花。淡い桃色抱き締めて。水面に浮かぶ花弁、そこにあの子はいない。

泣いた、泣いた、水の中。裸の肩を抱いたのは、生温い三月の水。掌を伝って落ちる想い出、きっともう止められない。

散った、散った、桜の花。また来年と手を振って。過ぎ去る季節を四度見送って、五度目の春に世界は動き出す。

泣いた、泣いた、水の中。裸の肩を抱いたのは、生温い四月の水。思い出すのは、泣かないと決めた筈のあの日。

揺れた、揺れた、水の青。棲み着いたのは、酷く歪んだ世界。全てが澄んで見えたあの頃。あの日見た景色を、きっと忘れない。






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