蒼く優しく
…このまま、窒息しちゃえばいいのに。
ぽつり溢した皮肉な理想に、そいつは呆れたように眉を下げた。
「なんだよ、それ」
陸上でしか生きられない俺たちにとって、海は酷く冷たい。
水は、好きだ。けれど、それ以上に酸素を必要とするこの身体が煩わしくて堪らない。ずっと底まで沈んでいけたらいいのに、例えば、地上の光が届かなくなるまで。
人類は、進化の過程で陸で生きる道を選んだ。しかし、地上は思いの外酸素が薄い世界だったらしい。こんなにも息苦しく、こんなにも生きにくい。他の奴らは何とも思わないのだろうか。何食わぬ顔で吸って、吐いて、そのまま肺まで黒く染めていくのだろうか。
「凛」
酸素がない海に自由があるなら、酸素がある陸に自由はない。吸って、吐いて、生きていけるけど苦しいままで。水を求めたこいつも、今もここで溺れているのだろうか。それとも、案外上手く生きているのだろうか。
「なんだよハ、」
酸素が薄い、ここでは息が出来ない。酸素が欲しい、正しく生きていけるだけの。
「ル……」
そいつの腕を引いて、そっと唇を重ねる。
「…っなに、すんだよ」
俯いて息を吐いた、そいつの目を見て少し笑った。
「何してんだろうな」
睦月橋の上で、触れるだけの短いキスをした。二人が離れてしまっても、まだ此処に生きていてよかったと笑えるように。
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