サンタ厳禁

※どたばたギャグ



西洋の文化であるクリスマスは、室町の日本に生きる彼らにとっては本来無縁のイベントだった。


「そうじゃ!寝ている下級生の枕元にクリスマスプレゼントを配ってサプライズを仕掛けてやろう!」

しかし、学園長の突然の思い付きにより、最上級生である六年生の代表一人がサンタに扮してプレゼントを届けることになってしまった。


**********


「学園長がご自分でお配りになればいいものを…」

「何でも、プレゼントを用意してみたはいいが数は多いは夜遅いはで億劫になったらしい」

「完全に丸投げということか…」
「細かいことは気にするなっ!」

「仕方ねぇ…ここはギンギンにくじ引きで決めるぞ!」


そして一斉にくじを引く。皆は白い紙を、仙蔵は先端が赤い紙を引いた。

「よしっ仙蔵がサンタで決定だな!」


「いやいやいやいやちょっと待たんか!こ…こういう時に貧乏くじを引くのは決まって彼奴の筈じゃ…っ」

不運委員長、善法寺伊作。彼奴が選ばれない筈がない。


「ああ、伊作か?彼奴は風邪でダウンしてるぞ」

仙蔵の言いたいことを既に理解した留三郎が呆れたように笑う。

ああ、そうか。最早不運なめに遭っていたとは流石だ、と仙蔵も思わず乾いた笑い声を漏らした。


「ま、サンタが風邪菌をプレゼントするわけにはいかんからな!」

文次郎がなに食わぬ顔でそんな冗談を言って笑う。このくだらなさ…安藤先生に似てきたんじゃないだろうか、と仙蔵はいらぬ心配をした。

時刻は真夜中、日付が変わろうとしていた。


**********


「…で、衣装は何処にあるのだ」
「もそ…ここだ」

そう言って長次が取り出したのは何のコスプレかと思うほどのミニスカサンタの衣装。

「なっ…なあああああ!!?」

仙蔵が思わず叫んでしまい、長次が慌ててその口を押さえた。


「こんなもの誰が着るか!」

「学園長が用意したんだ!仕方ねぇだろうが!」

「知ったことかあぁ!やらんぞ!私は断じてやらんぞ!」

この時、五人は打ち合わせの為い組の部屋に集まっていた。

衣装を目にした仙蔵は顔色を変えて暴れだし、そのまま部屋から逃走しようとする。

ここ仙蔵の部屋なのに、何処に逃げようとしてるんだろ、と小平太は疑問に思いながらその様子を眺めた。

「こうなったら…無理矢理着せるしかないな!」

痺れをきらした留三郎が仙蔵の両肩を押さえつける。

「んなぁっ!?」

「もそ…仕方ない」

長次も仙蔵にじりじりと近寄ってくる。

「それなら私も手伝う!」

遠くから眺めていただけの小平太まで此方にすっとんで来て、仙蔵はいよいよ囲まれてしまった。

おのれ留三郎、長次、小平太…他人事だからと調子に乗りおって…!と仙蔵は唇を噛む。

「覚悟はいいか?仙蔵よぉ」

目の前には、勝ち誇った笑みを浮かべる鬼の会計委員長。

「着せ着せドンドーンっ!」

その言葉と共に、着物の帯が引かれた。


**********


「ぶっははははは!似合うじゃねぇか仙子さん!」

例の衣装に身を包んだ仙蔵を指差し、文次郎が爆笑する。

「喧しい!!」


仙蔵は隠し持った炮烙火矢を取り出した。

「おわぁっサンタがそんな物騒なもん出すなよ!」

すかさず留三郎が突っ込む。

「わははーっ仙ちゃん似合うぞ」
と小平太が手を叩いた。好き勝手し放題のこいつらといたのでは話が進まない。さっさとプレゼントを届けてしまえばいいのだ。と仙蔵は自分に言い聞かせる。

「…で、プレゼントは何処にあるのだ?」


「「「そこ!」」」


三人が指差した部屋の隅には、大の大人が三人係で担ぐくらいのプレゼント袋が転がっていた。

「でっ…でかあああ!!?」

仙蔵が思わず叫んでしまい、長次が慌ててその口を押さえた。

無理もない、何せ一年から三年の人数分用意されているのだから。
「わっ…私一人でこれを運べというのか!?」

「だって衣装が一つしかねぇんだから仕方ないだろ」

手伝ってやりたいのは山々だけどよ、とあからさまに嬉しそうな顔をした文次郎が言う。

するとその時、長屋の襖が開けられた。

「おぉ〜い…」

ホラー映画のワンシーンのようにズルズルと床を這っているのは。

「「「「いっ…伊作!?」」」」

「こ…これを……!」

屍のような伊作が手にした何かを仙蔵に渡す。

「こ…これは!」


それは、トナカイの着ぐるみだった。

「でかした伊作!さあ、誰がこれを着て私とプレゼントを配るのだ?」

仙蔵はいつもの冷静さを取り戻し、冷ややかな笑みを浮かべ四人に問いかける。皆一斉に首を横に振った。

その時、死体のように床に突っ伏していた伊作が顔をあげ、鼻水と咳に苦しみながら、一言告げた。

「これを……もんじろーに…!」

ぴくぴくと右手を伸ばしてそう言うと伊作はバタリと力尽きた。

「なっ…なにいいいいいぃ!!」

「はははざまーみろ文次郎!」

留三郎は勝ち誇った顔で文次郎を嘲笑う。心の中でよくやったありがとう伊作、成仏しろよと合掌しながら。

「今は亡き伊作の遺言だ、聞いてやれ文次郎」

仙蔵は上機嫌で文次郎の肩を叩く。

「これで伊作も浮かばれるなっ!」

「ああ…」

「くそっ…あの世で覚えていやがれ伊作〜!」

…僕、死んでないんですけど。

留三郎に担がれ部屋に運ばれる最中、伊作は思った。


**********


「ぶっははははは!いい様だなトナジロー!」

「うるせえぇっ!変な呼び方すんな留三郎!」

「何だと!?なかなかいい名前じゃないか!」

「お前らくだらんことで揉めているバヤイか!早く行かなくては皆起きてしまうぞ」


「ぐほぉっ」

仙蔵は文次郎を蹴り飛ばし巨大な袋を肩に抱え、文次郎に跨がった。


「ちょっ…色々違くねぇ?」

「乗り心地は最悪だな」

すると長次がもそもそと喋り出す。

「トナカイは乗り物ではなく…ソリを引く役だ……」

「へぇ〜そうなのか!長次は物知りだな!」

そんなの常識だと突っ込みたい文次郎だが、上に乗る天然サラスト野郎に殺されかねないので黙っていた。


「しかし…ソリがないぞ」

「ふっ…俺に任せろ!」

部屋の入り口には、伊作を担いでは組の部屋に戻った筈の留三郎がいつの間にか立っていて、赤い布がかけられた何かを引っ張り出してきた。

そして、得意気にその布を取り去る。


「「「「おおっ!!」」」」


現れたのは、真っ赤なソリだった。その先端には、何故かアヒルさんの船首飾りがつけられている。

「昼間学園長先生の依頼で作っておいたのだ!」

「さすが用具委員長!…けど、なんでアヒルさん?」

「特に深い意味はない」


小平太がずっこけている間に、仙蔵が荷物をソリの上に積む。


文次郎はソリを引くために四つん這いになって縄を体にかけながらふと横を向いて、悲鳴をあげた。

「アヒルさん近あああっ!留三郎てめぇ…っなんでこんなのが俺の真横にきやがんだ!」


「喧しいトナジロー、ほら準備は出来たのだし出発するぞ」

「いけいけドンドーン!」

小平太が楽しそうに文次郎の頭を叩く。文次郎は抵抗するのを諦めたように渋々歩き出した。しかし長屋の床板は雪のように柔らかくないため、進む度にガガガガガと喧しい音をたてる。


アヒルさんと顔を並べながらソリを引くトナジローと、際どいラインのミニスカ仙蔵が真っ暗な廊下をソリで進んで行く様は、それは滑稽だった。


**********


プレゼント配達は、結局明け方まで行われた。

袋の中には下級生の名前が書かれたプレゼントの箱がごちゃ混ぜに入っているため、一つ一つ確かめ枕元に置かなくてはならない。

また、大きな音をたててはせっかく眠っている彼らを起こしてしまう。サンタというものは子供に姿をみられてはいけない、特にこんな無様姿だけは、と二人は神経をすり減らした。しかし二人も忍びのたまご。気配を消し音をたてずに忍び込むのはお手のものだった。…ガガガガガと床を引きずるソリの音以外は。


全てのプレゼントを配り終え、六年の長屋に戻ろうとガガガガガと怪しい音を立ててソリを滑らせるトナカイとサンタ。そして、二人は今さらあることに気づく。

「なあ…仙蔵……」

「なんだ」

「これ………歩いた方が早くねえか?」

「私もそう思っていた」



二足歩行を始めたトナジローと、際どいラインのミニスカ仙蔵が薄明るくなった廊下で、アヒルさんの首がついたソリを担ぐ様は、それは滑稽だった。


**********

自室に辿り着いた二人は余りの疲労にバタリと倒れ込む。そしてそのまま深い眠りについてしまった。怪しい衣装を着たままで。そこにそろそろと忍び込んでくる人影が二つ。


「着せ着せドンドーン…!」

「ああ…」

入ってきたのは、ろ組の小平太と長次。二人は小声で話しながら、仙蔵と文次郎を寝巻きに着替えさせた。


「よしと、長次!私たちも寝ようか」

「ああ…日が上るまでの短い時間だが」


***********


そして、忍術学園に朝がやってきた。あちこちの部屋から嬉しそうな歓声が響く。

小さな後輩たちに夢をみせた二人は、未だ夢の中だ。


永遠の眠りについたと噂された不運な彼もまた、眠りから覚める。

「……あれ……熱、下がってる…?」

サンタさんのおかげかなぁ、とぼんやり考えながら伊作はすっかり楽になった体を起こす。

「…!」


枕元には、同室の留三郎が胡座をかいて座っていた。ずっと看病してくれていたのか、うつらうつらと眠っている。


「留さん…ありがとう」


閉じられた彼の瞼に、伊作はそっと口づけをした。



「小平太みろ…新しいバレーボールがある」

「えっ本当か!?」

その言葉に寝巻き姿の小平太が、布団から飛び起きる。

「朝目が覚めた時に…何故か枕元にこれが置いてあった……」


「なに!?」

サンタって本当にいるんだな!と小平太はボールを抱えてはしゃぐ。

「みんな起きたら、バレーしよう長次!」

小さな子供のように無邪気な笑顔に、長次は嬉しそうに頷いた。


下級生がプレゼント自慢大会を始める頃、仙蔵と文次郎は目を覚ます。

眠い目を擦りながらふと枕元に目をやると、そこには見覚えのない箱が二つ。


「………?」


箱の中身はきっと、赤い帽子に赤い服、白い髭をはやした優しいあの人だけが知っている。




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クリスマス記念に仙蔵中心の6年生ギャグ小説でした!

最初は厳禁トリオの予定だったのですが、思いの外6年の会話が盛り上がってしまったので…(笑)

そして思いの外長くなった…!そしてギャグといいつつ、結局文仙長こへ留伊のCP要素有りになってますね(笑)


それでは皆様メリークリスマス!

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