「誕生日」
「おはよ。はい。もちろん用意してますよ」
朝一番、顔を見合わせてすぐに言う事が挨拶じゃなくてプレゼントの催促かよ。
彼の前に差し出すのはA3サイズで作ったモザイクアートのパズル。
「倉持の時よりサイズが大きくて、値段が張った分は倉持にも手伝ってもらったから、私と倉持からってことで」
「つーことだ。感謝しろ」
ありがとうと受け取った御幸は少し納得がいかないそうな顔をしていた。
え…やっぱり同じものは嫌だった?
でも御幸の写真は倉持の時より数もあるから厳選したし、どれもイケメン捕手様しかいないけど?ダメ?
「ヒャハハ!ま、先に誕生日が来たもん勝ちってやつだな。おい開けろよ。俺が真っ先に崩してやっから」
倉持と御幸が痴話喧嘩しているのを傍目に見ながら、やっぱりなにか気に食わなかっただろうかと少しだけ不安に思いながらホームルームを迎えた。
それでも別段、何か変わったわけではなくて。
「御幸ノート見せて」
「何言ってんの?俺誕生日だから俺に見せろよ」
「なにそれ理不尽横暴ど変態」
「ど変態関係ないくない?」
「関係なくなくない」
「なくなくなくない」
「……なくなくなくなっ…」
「お前の負け〜。誰かからノート写させてもらって来い」
悔しい…。
今の敗因は今日はあんまりおしゃべりが捗ってないから舌足らずになっただけだ。
渋々隣りの山田くんに「ノート見せてください」とお願いすると「ひっ」と小さな悲鳴で返された。
ノートは借りれたけれど納得いかない。
今日はなんかこんな日だな…
「ねぇ、御幸…プレゼント本当は気に入らなかった?」
一番納得がいっていないココ。
別に倉持のように喜んで欲しかったわけじゃないけれど、もう少し喜びを表現してくれても良くない?
って、それを強制するのもいかがなもんだって話で…。
「いや?嬉しいけど?なんで?」
「そう?あんま嬉しげじゃないなーと思って…」
「はっは、何?気にしてんの?俺の反応」
嫌味たっぷりに笑顔を浮かべる御幸に、やっぱり聞くんじゃなかったと思いながら、視線を下げて山田くんのノートを一生懸命写し取る。
「べ、別にィ?ただ、せっかく倉持もお金出してくれてるし…ゴミ箱に捨てられるのは嫌だなぁと思って…」
「はぁ!?んなことするわけねーじゃん」
デスヨネ…。
でもじゃあなんだっていうんだ、その微妙な反応は。
「みょうじ、なんか忘れてね?」
少し拗ねたように口を尖らせる。
メインの誕生日プレゼントは渡したし、この間の古文のノートはこっそり返してあるし、借りてるジュース代はまだ滞納できるはずだし…。
ちっとも思い出せなくて首を傾げた。
「バーーーーカ」
間をたっぷりと溜めてそう呆れながら言われれば、腹立つし、なんだっけと焦るし、腹立つから一発殴る。
けれど、どれだけ聞いても教えてくれなくて、御幸くんってば本当に意地悪だクソが。
「というわけなんですが、どう思います?チーターくん」
「殺すぞ」
「キミね!そうやってすぐ人を脅すことしか言えないのかい?!傷つくよ!!私は!!」
「良いのか?泣く泣く協力してくれつって頼んでくるから、協力してやったのに。プレゼント。今から金返してもらっても良いだぜ?」
「あひっ…倉持ホント暴力的…」
倉持に相談したところで何一つわかるはずもなく、徒労とはまさにこのこと!!
無駄に威圧的な態度で睨まれただけですよ!
せっかくの休憩時間、御幸から離れてわざわざ倉持を単体で呼び出したと言うのに!!
「だいたい、御幸がどう思ってるかなんて知るか」
そんなに気になるなら本人に土下座でもして聞いてみろと言われても、アイツの事だから、土下座したところでニヤニヤ笑いながら人の頭を足蹴にされるに違いない。
「どうせくだらねぇことだろ。おめでとうって言われてないとか…」
「え?」
「あいつはくだらねぇとこで、引っかかるやつだから」
「え?いや、待って……言った?」
「俺?俺は朝飯食ってる時に…あ?お前言ってねぇの?」
御幸がくだらないことで機嫌を損ねるなんてそんなの二年も同じクラスに居たら十分に存じておりますとも。
二年も一緒に居るのに、今年の誕生日はおめでとうって言ってないわ。
どう思い返しても、朝はプレゼント渡すだけで恩着せがましいこと言うだけ言って大事なこと言ってなかった。
「いや、でもね…」
ガキじゃないんだから…なんて。
さすがの倉持も苦笑いを浮かべている。
それは御幸に対しても、私に対しても。
はぁ…バカだな。
そんなことで、誕生日を喜べないなんて。
もったいないだろ、せっかくみんながお祝いしてくれるこの世に生を受けた大事な日に、何か一つでも気に入らないことがあるなんて。
授業も始まるし、急いで教室に戻ればトイレから戻って来たのか廊下で御幸とエンカウント。
「御幸!!!誕生日おめでとう!!!」
「声でけーよ、バカ」
にへらと破顔する御幸の表情。
「言い忘れてたごめん!」
身長がぐんぐん伸びていやがるから、近寄れば見上げなきゃならないその視線。
声がでけぇって、ともう一度窘められ、頬を(マジの力で)抓られた。
「ありがと」
うん、良かった。
その笑顔が見れるなら、来年も全力でおめでとう言うよ。
でも、私の可愛い天使のほっぺはもぎ取らないでね…。