「さっむ…!」
「あったりめーだろ。なまえちゃんなんでスカートなんて履いてられんの?膝小僧赤いよ?」
バカを見るみたいな目で見てくる花巻先輩とは、駅のホームで出会った。
テスト期間だから早々に帰る人もいれば、教室や図書室なんかで勉強して帰る人もいる。
私は後者で教室で友人と勉強会を開いていたけれど、どうやら花巻先輩も後者だったらしい。
遅い時間の電車を待つのは私と先輩とほかに知らない生徒数人。
「今日は珍しく、ほかのお三方は一緒じゃないんですか?」
「いつも一緒にいるわけじゃないから」
呆れたように笑う。
そうなのか、あの青城で四天王と呼ばれる四人はいつも一緒なわけじゃないのか…。
改めて驚いて笑えた。
部活中はあんなに仲良しなのに。
「なまえちゃんこそ今日は一人?」
友達いねーの?なんて嫌味っぽく笑う花巻先輩にカチンと来たので、グーで肩パンチ。
わざとらしく、イタタタとか言うけどその筋肉に跳ね返された私の方が痛い。
「友達は、彼氏できちゃって…」
「それで、ぼっち?」
「改めて言葉にしなくても良いじゃないですか!言っときますが、先輩もぼっちですからね!!」
「あはは、まぁ、そーかもな」
「どうせクリスマスもお正月も、なんならバレンタインだって部活だし!ぼっちでも寂しくないもん!」
フンと鼻を鳴らした。
逆に青城のイケメン四天王と言われる人たちと過ごせるんだから、逆に鼻高々だし!
及川クラスターどもめ、羨ましいだろ!!
なんて、息巻いても全然嬉しくならないし気分上がらない。
むしろそんなに好きならマネ手伝ってよ…。
このクソ寒いなか水でボトル洗ったり、冷え込む体育館で震えながら得点係やったり…少しはやってみろ。
「なまえちゃん悪ぃー顔になってる」
そんなこと考えていたら、どうやら表情にまで出ていたらしい、先輩はけらけらと人の顔をみて笑った。
お互いに吐く息は白く、あー冬だなー、なんて当たり前のことに溜息つく。
ようやくやって来た電車の扉が開くと中の暖かな空気に包まれるような気がした。
「「あったかーい」」
二人して赤くなった鼻をすすった。
人はまばらだけど、ボックス席は空いていなくて横並びのシートに二人並んで座る。
時刻は8時前だというのに、案外人が乗っている。
「赤い膝小僧は可哀想だから隠してあげようね〜」
「あ、うわー嫌味ったらしいけどヤサシー」
みっともなくドサリと座ったものだから、露わになっていた足に先輩が折り畳んだマフラーをかけてくれた。
こういうとこ女としてだらしないよね、知ってる。
直前まで首に巻かれていたものだから暖かい。
横目でチラリと先輩を見ると、もうカバンから単語帳を取り出して眺めていた。
マフラーをしていたからか、そのピンクの髪の裾は撫でつけられたように大人しい。
「…ありがと、ございマス」
「ん?どーいたしまして」
倣って、私も化学の教科書を取り出した。
(ぼっちも二人揃えば複数人……寂しくない、かもね)
そんなことを一瞬思ってふふっと笑った。