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辞書貸してください

辞書を借りようと思って、主将のクラスを覗く。
彼は楽しそうに友達と笑いあっていて、こちらには気付いていない。
呼ぼうかとも思ったけれど、楽しそうに話しているから廊下から窓越しにそれをなんとなし見つめた。

バレーしてる時は本当に真剣だし鬼のように怖い時もあるし、でもああやって笑うこともあるし、ふざけたり、挑発したり…。

本当、忙しい人だなぁ。



「どうしたの?誰か探してるの?」



突然後ろから優しそうな男の先輩から話しかけられ、どきりと心臓が跳ねた。

「あ、いえ……大丈夫です」

「そう?何かあったら…」

「おう、どーした?」

親切はありがたいけれど、やっぱり“先輩”という存在に一瞬萎縮した。
けれど、ひょいっと顔を出した主将に救われる。

「黒尾の知り合い?」

「部活のマネージャー」

「あー!へぇ、可愛い後輩だね」

さらりと言ってのけられた言葉に、思わず二度見した。
私のその反応が面白かったのか、主将はゲラゲラ笑っている。

「ヒィー!可笑しー!!こいつが、可愛い?!」

「…クロ先輩うるさい。良いから辞書貸してください」

お腹を抱えたまま、「ちょっと待ってろよ」と言いながら教室に戻る。



「ね、きみ名前は?」

「えっと……みょうじなまえです」

まさかまだ話が続くのか…。

「何組?」

「…1組です」

ニコニコ向けられる笑顔のどこに視線を当てれば良いかわからない。

「じゃあ、なまえちゃんね!なまえちゃんのクラス今度遊びに行っても良い?あ、てかさ、今度は俺の辞書借りに来てよ?」

サングラスどこですか?

思わず目を手で覆いたくなるぐらい眩しくて、一歩引きかける。

「ほらよ」

ずしりと重い物が頭に乗る。

「言っとくけど、こいつバレー部のだから。ナンパすんなら他の女にしてくだサーイ。

ほらなまえも授業始まるから、とっとと教室に戻れよ」

背中を押されて階段の方へ向きを変えられる。

「あ、クロ先輩、ありがとうございます。辞書」

「んじゃ、また部活でな」

クシャと頭をひと撫でされ、話しかけてきた先輩を連れて教室へ入って行った。




「別に彼氏いるとかじゃないんだろ?紹介しろよー!」

「バーカ。彼氏できねぇよーにしてんの。お前にはやらん」

「は?父親かよ」


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