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忘れてたなら良かったのに

先輩はいつも眩しい。
引退したのに遊びに来た及川先輩たちに囲まれて、楽しそうに笑っている姿が視界の端に映る。
彼らのオーラもあいまってか、いつにも増して眩しくて、手が届かないな、なんて思い知らされる。

みょうじ先輩は、数日前に誕生日を迎えた。
バレー部の大事なマネージャーだし、明るい性格で、先輩後輩に関わらずみんなに慕われてる人だからたくさんの部員からお祝いをされていた。
みんながジュース奢ったり、売店でお菓子買ってたりしたから、俺も例になく用意してたけど…。
渡さなかった。
多分、きっと、俺だけなにもしてない、ことになってる。
てか、おめでとうございますさえ言っていない。
それでも先輩は気にすることなく、今まで通り接してくれてなんかそれもムッとする。
たくさんの人に祝われてるから、俺から祝われたかどうかさえ記憶が曖昧なんだろうね。
でも、プレゼントを催促してくるような人でもないか…。
渡しそびれたそれを、渡そうか渡すまいか悩んでるなんて、こんな自分がひどく面倒くさくて嫌になる。



部活も終わり、みんなが片付けを始める。
みょうじ先輩は一足早めに部室へ戻り、日誌を書いていた。
片付けをこっそり抜け出した俺は、その部室の扉を静かに開ける。
机に向かっていた先輩が、その頭を上げて俺と目があった。

「国見くん、お疲れ様!片付けもう終わった?」

急がなきゃ、とまたその視線は手元に戻る。
黙って自分の鞄を漁った。
わかりやすい場所にしまわれてもう何日も経つ。
恥ずかしいからラッピングなんて頼みもしなかったことを少しだけ後悔した。

「これ」

日誌と先輩の顔の隙間にそれを差し出す。
俺とそれを交互に見比べて「え?」と素っ頓狂な声。
おずおずと出された手の上にそれを置いた。

「お誕生日おめでとうございました…みょうじ先輩」

相変わらず驚いた顔で見つめ返してくるものだから、そう長いことは見ていられなくて逸らす。
だってその大きな瞳にいろんな気持ちが吸い込まれそう…。

「あ、ありがと…忘れてたなら良かったのに」

そういたずらっぽく言いながらもはにかんで笑うから、きっと喜んでもらえてる。

「…忘れてない。みんなに祝われて調子に乗ってるから渡したくなかっただけ」

素直じゃないのは俺も同じ…というかもっとひどいか。
でも先輩はひどいなあと呟きながら笑ってくれる。
視線を手元のそれに戻して中身の見えない袋から取り出す。

「おー!可愛い!!貝殻ついてる!!」

爽やかなミントグリーンにシルバーの貝殻で装飾されたシンプルなデザインのシャーペン。
嬉しそうにしげしげと見つめる先輩にすこししてやったり気分。
だって…

「もしかして、私がお気に入り失くしたの気付いてたの?」

「…別に?そんなにみょうじ先輩のこと見てないし」

「ふふ、もう…素直じゃないなぁ、国見くんは。耳、赤いよ?」

「っ!?ばっかじゃないの?調子、乗らないでよね」

こちらまでやって来た先輩に背中を向ける。
この人は本当に嫌だ…。


「はいはい。ありがとう。大切にするね!」


後で少し背伸びをした先輩が、俺の髪をくしゃりと撫でて笑っている。

眩しくて、直視できない。



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