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髪、結んであげようか?

暑い夏。
私にとって、このバレー部と迎える初めての夏。
1年の秋に研磨に(嫌々)勧誘されて入部したのは、本当に軽率な行動だったと思う。
だってマネージャーしんどいし。
ルール難しいし。
スコアブックとかもっと丁寧に書けってクロ先輩に言われるし。

「なまえ」

ランニングに行ってしまったみんなの帰りを日陰で待っていれば、研磨がいち早く戻ってきた。

「早くない?」

「…気のせい」

走ってきた割にはあまり上がってない息。
でも日向には出ていたようで、私から見れば異常なほどの汗。
きっとしんどくて途中で戻ってきたのだろう。
サボりはよくないとは思うものの、心底しんどそうにしている研磨を適当にも扱えなくて、座っていた木陰を譲る。
万が一、熱中症でもいけないし…。

「ちょっと待ってて」

素直に木陰に座って気だるげな彼を置いて、部室へ走った。


「はい、これ」

「…冷た」

研磨の頭の上にタオルで巻いた小さいアイスノンを乗っけた。
日陰のコンクリートに背を預け、空を仰ぐ研磨の首筋にはいくつもの汗の滴。
金色に輝く髪がまとわりついて鬱陶しそう。

「髪、結んであげようか?」

怪訝そうな顔を向けられる。
なんだよ。
わざわざ気を利かせてゴムも持ってきてあげたのに。

「……お願い」

その視線を察してか、しぶしぶ後ろを向く。
アイスノンは首に巻かれた
手櫛をとおせばサラリと抜けて、男のくせに綺麗な髪だな。
髪を梳いたのと同時に、私の足に凭れる。

「ちょっと前出てよ、やりにくい」

「だるい」

「もー…」

ぼんやりと遠くを眺めている視線は伏し目がち。
まるで毛づくろいされる大きな猫。

「ねぇ」

「ん?痛かった?」

「ありがと」

「髪ぐらい自分で結べるようになりなよ」

「マネ、引き受けてくれて」

噛み合わない会話。
今さらなにを…一年前の話じゃん。
髪ゴムをとおして結えば、サイドは零れるけれど首元は涼しそう。

「できた」

「涼しい…」

「でしょ?ってか、アイスノンとこれにはお礼ないの?」

しっぽのように見える束ねた髪を指先でおちょくりながら笑う。
研磨はゆっくりと離れて、立ち上がった。
クロ先輩ほど差はないけれど、それでも研磨の方が幾分高いから見下ろされる。

「なまえがマネージャー引き受けてくれて良かった」

「そう?」


「うん。少しでも長く一緒に居れて、嬉しい」


普段嫌な方には表情豊かなその顔が、珍しく笑っていた。
それに…すこし、近い。
すこしだけ弧を描いている口。
どきどきするのはプライベートゾーンの侵害だから。
あっそ、っとそっぽを向けば、私まで熱中症。


「研磨!お前サボってただろ!」
「…サボってない」
「じゃあなんで髪結んでアイスノンして落ち着いた呼吸してんだよ!」
「…気のせい」
「おい!なまえ!研磨にだけ優しくしてんじゃねーぞ!」
「クロ、嫉妬、醜い」


[ 髪、結んであげようか? ]

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