昨日はいろんなことがあった。
家に帰ってベッドに顔を埋めてからのあたしのニヤケっぷりは半端なかった。


雨が降って、沖田君が傘を持ってきてくれて、相合傘で帰った。
その後、あたしが家に着いた頃は雨がやんでいて、沖田君が家まで送ってくれたのを覚えている。


一昨日よりもずっと沖田君のことが好きになってる気がする。
ううん、気がするんじゃなくてそうなんだ。
日に日にあたしは沖田君への愛が増大していくんだ。


「おはようございまさァ、あや」

「あ、おは…よ」


いきなり挨拶され、返す言葉が見つからず普通に挨拶を返してしまった。
あたしにはそれで上出来。それで充分。
今までのあたしなら挨拶されても返事すら出来なかっただろう。
これはあたしにとって大きな成長なんだ。


沖田君が階段を上がっていくのを見ていると後ろから神楽ちゃんに抱きつかれた。
あたしは神楽ちゃんや妙ちゃんに全く気づかずに沖田君をジッと見つめていた、と考えると自然と顔が赤くなってしまう。


「最近、サドとあや仲いいネ。なんかあったアルか?」

「うん。昨日、一緒に帰ったんだよ。あたしが傘忘れちゃったから入れてもらって」

「え?え!?ってことは相合傘アルか!?あんにゃろ、私よりも先にあやと相合傘しやがってぇぇえ!!」

「今度、神楽ちゃんとも相合傘したいな。」

「うん!私もしたいアル!!」

「ふふ、二人とも仲いいのね」


今日は七月一日。
もうすぐ一学期も終わるんだ。
それから長い長い夏休みに入る。


つまり…沖田君に会えなくなる…。
会えなくなる…。
それがあたしにとってどれだけ辛いか、まだ体験したことがないから分からないけど。
頭では少し分かっているつもりだった。


今まで早く来て欲しいと思っていた夏休みが来ないでと思うようになるなんて考えていなかった。
沖田君を好きになってからの学校生活は友達こそ少なかったがすごく楽しかった。
でも、同じくらい辛いこともあったのかもしれない…。
もしかしたらこれから辛いことがあるのかもしれない。それが夏休みかもしれない。


「夏休みアルな〜。あ、あや。今度、一緒に映画行かないアルか?姉御と私とあやで。」

「ああ、うん。いいよ。」

「じゃあ詳しく決まったらメールするわ。いつが空いてる?」

「基本的にいつでも。暇だし。」

「じゃあ、私達も暇だから初日から行っちゃう?」

「あ、そうだね!それいいね、楽しいね!!」


今、考えてみると、友達も二人できるなんていい方かもしれない。
小学生の頃なんかはずっと一人で遊んでたし、中学生も決まった友達はいなかった。
主に一人で行動して、先輩との関わりも薄かった。
だからやたらと呼び出されたり、なんだかんだ面倒なことが多かった。


あたしにとって今年一年は特別な年なんだ。


でも…夏休み。あたしはどう過ごせばいいの?
妙ちゃんと神楽ちゃんと映画行って、カラオケとかも行って、お出かけして…。
あたしはそれで満足できるの?


あたしは無理。沖田君と1ヶ月以上会えないのは苦しすぎる。辛すぎる…。
そう考えるとあたしは沖田君との距離はまだ離れたまんまなんだってことが分かった。
昨日、一緒に帰れたからって一気に距離が縮まる訳ないじゃん。
まだ、メアドもしらないのに…。


「あや、ちょっと」


しょぼくれてるあたしを遠くから呼んだのは沖田君だった。
あたしを呼んでこっちこっちと手招きをしていた。


神楽ちゃんと妙ちゃんに背中を押されあたしは沖田君の席に行くことにした。

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