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HRの終了と同時に、私は図書室へと向かう。


私が唯一学校(ここ)で落ち着ける場所………だったんだけど、最近はその唯一落ち着ける場所も奪われようとしている。


校舎の奥にある図書室に行く生徒はこの学校には私だけだ。
そのくせ、本の量が他の学校と比べものにならないほどの多さ。
ジャンルも豊富で一般向けからマニア向けまで様々な本がそろっている。
そこらへんの地域の図書館より設備もいいし、本の量だって多いと思う。
っていうのも、近々学校の図書室を一般の人でも使えるようにするそうで、本はもともと多かったんだけど、設備はここ何年かで整えたみたい。
で、何で、そんな設備の整った図書室に私以外の生徒がいないかと言うと、いわゆる不良学校であるここの生徒は、図書室への立ち入りが禁止されているのだ。
使用を許可されているのは数名の生徒のみ。
そして、毎日といっていいほど通っている私は他の生徒を図書室で見たことがない。
そもそも禁止するまでもなく、校舎の奥にある図書室に来る人はいなかった。
だから、図書室は私だけの場所だったのだ。
それなのに………。
あーもう考えるだけで嫌になる。
それでも、やっぱり放課後は図書室には行きたいし、ここは我慢しなきゃ。うん。

図書室に入り、1冊の本を手に取っていつもの場所へと向かう。
窓際の陽が射し込むこの場所は私の特等席。
残念ながら今日は空を厚い雲が覆っている。
雨降らなきゃいいな……傘持ってきてないし………。
とりあえず今は本を読みたい。珍しく今日は“あの人”も来てないみたいだし。
このまま来ないでいいんだけどな。

本を開きながら、そんなことを考えるていると隣に人の気配。

あー、来てしまった……。

「まーた、ゲロ甘恋愛小説?」


この地味な男こそが、私の落ち着ける場所を脅かす存在。

うん。今日も相変わらず地味メガネだ。
メガネも地味だけど、漂っている空気も地味なんだよな。
Yシャツのボタンはいつも上から2つを外し、ネクタイはしていない。
いつ会ってもこの格好。

なんて、私も人のこと言えないくらい地味なんだけど。
メガネに三つ編みなんていう真面目キャラの王道な外見。
とりあえず学校では目立ちたくないから、教室では気配を消している。

あ、でもメガネと三つ編みは私が好きでやってるわけじゃなく、これには深い事情があるのだ。
まぁ、その話はおいおいってことで。

「司書さんこそ、また殺人小説ですか?」
いつもグロそうな小説ばっかり読んでるもんな。
「お前ねぇ、殺人小説ってなんだよ、そんな物騒なジャンルの小説なんか読んでねーよ」
「だけど人が殺される小説でしょ?」
そういうと、男――司書さんは大袈裟にため息をつき、当たり前のように私の隣に腰をおろす。

広いんだからもっと離れて座ればいいのに。
何でいつも隣に座るのよ。

「図書委員は分かってないねぇ。ただ人が殺されるだけの小説じゃない。そこに至るまでの様々な―――」

司書さんは私のことを図書委員と呼ぶ。
図書室を使える生徒は少ないから、自動的にその中から図書委員は決まる。
本好きな私は勿論、図書委員を選んだ。
だから、初めて会った日から、彼は私のことを図書委員と呼ぶ。
ちゃんと、芹沢伊織(せりざわいおり)って自己紹介したはずなんだけど……。
絶対、忘れてる。
まぁ、私も"司書さん"って呼んでるから文句言えないけどね。
彼の名前は確か……桐生玲司(きりゅうれいじ)、だったと思う…………たぶん。
普段は"司書さん"だし曖昧なのはしょうがない、ということにしておこう。

「あ、もういいです。この前ので分かりましたから。私に合わないのは」
この前みたいに、延々良さを語られても困るので、ひとりで熱弁している司書さんにすかさずストップをいれる。
「それに司書さんが何を読んでても私には関係ないですし」
あなたの趣味なんてどうでもいいから、私に本を読ませてくれ。
精一杯の皮肉を込めたつもりだけど、そんな皮肉がこの人に通用するはずもなく。
「へぇ、そういうこと言うんだーそっかー図書委員が読みたがってた新刊買わなくていいのかー」
にやりと嫌みに笑う顔がすごくむかつく。
なんてさすがに口に出してはいないけど、顔には思いっきり出てるんだろう。
でもまぁこれくらい許されると思う。
「ぷっははっ………顔、やばいよ」
だってこの人にとっては全然なんてことないから。

これ以上貴重な読書の時間を削りたくないのでいまだ笑い続けている司書さんを無視して本を読み始める。
ていうか、どこにそんな笑えるとこがあったんだ。

ひとしきり笑うと司書さんは、あー面白かったと呟いて本を読みだした。



 

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