短編たち | ナノ
07
そんなクズみたいな付き合いがずっと続いていくなんて生ぬるい事を考えていた。
那月くんに睨まれて、そんな那月くんを響が愛でて、俺はひたすらガンガン音楽を聴く日が続くと思ってた。
なのに。
「……え、なにあれ」
ぼお、と買い物がてら商店街を歩いていると見知った背格好の男。
そこまではいい。全然いい。
ただもんだいは、響の横にいたのが那月くんじゃなくて、女の人だったこと。
そして二人はそばのホテルに消えて、
ふと横を見ると唖然とした那月くんが立っていたこと。
「なんで、」
小さく漏らした声は俺のものか、那月くんのものか。
どうせ気づいているのだ、響は。
那月くんが見ているのを知っていて、ホテルに連れ込んだのだ。
(ほんと最悪)
捻くれている。最悪だ。
やりすぎだ馬鹿。
共にぎゅ、と胸が痛んだ。
おれだけじゃだめだった。
仮の大切な人にもなれないってことだ。
なにそれ、笑える。
「那月くん、平気?」
平気?そんなわけないってわかってるのに。俺は那月くんを嫌いになれないから心配してしまう。
那月くんの目はどこか遠くをみていて、顔を覗き込むと大きな瞳からぼろぼろと涙がこぼれはじめた。
「も、っ、響のことわかんない」
うん、俺もわかんないよ。
「こんなの、こんなの」
でも分かるでしょ、那月くん。
響は君が好きなんだよ、馬鹿みたいに君が好きなんだよ。
「なんで時雨くんはけろっとしてるの!?響が、響が」
「なんで?だって俺、悲しくないよ」
こんなの。
全然悲しくない。
悲しいなんてそんなこと、自惚れない限り思えない。
「時雨くんは、響が好きなんでしょう?」
そうだね、好きだよ、大好きだ。
「別に、どうでもいい」
大きな目はさらに大きく開かれて、ぼろぼろと溢れる涙は止まらない。
ああ、いいなあ君は。
羨ましいくらい素直だ。
「時雨くんは、好きでもないのに響にまとわりついてるの……?」
「……」
「ならもう話さないでよ、俺のなんだよ、響は。俺のなの」
「そんなの、今更言うの?」
今更俺をえぐるの?
泣きたいくらい分かってることなんだ。
君のだよ、響は。
眩いくらいの笑顔が向けられなくなったのはいつだろう。
会話すらろくにしなくなったのはいつだろう。
でも、全部全部崩したのは俺の中のこの馬鹿みたいな気持ちなんだ。
「安心しなよ那月くん、
響は君だけのもの。でしょ?」
だってそうじゃない。
気づいて、もう俺に確かめるなんて、そんな馬鹿げたこと。
(泣きそう)
君になりたい。
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