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ことん、と軽い音を立てて目の前のローテーブルに置かれたのは外側に水滴をまとったグラス。注がれているのはおそらく麦茶だろう。
「お茶しかないんだ、ごめんね」
「いや、お気にせず」
相変わらずもっさりとした黒髪が顔の半分を覆っていて、口元しか見えない男が笑う。ゆっくり笑う。
見回すと、性格の表れというかとても片付けてある部屋だ。家族で暮らしてるには狭く、一人暮らしには広いようなマンションの一室。おそらく一人暮らしなのだろう
タッパがあり、それに反してひょろひょろした体型、そしてもっさりヘアーに、隠れて見えないが眼鏡。
根暗で所謂ぼっちで浮いているこいつの名前はたしか奈瀬だか奈々瀬、だか。
しかも俺はこいつがいるところで思いっきり「あいつ根暗だよな」と悪口を言ったことがある。
もちろんこいつがいることを知っていて。悪意を持っての悪口である。
気まずいことこの上ない。
友達が楽しそうにけらけら笑ったりするから調子に乗ったんだ。そういうとこある。うん、反省はしてる。
さて、
なんで俺がいまこいつ、奈瀬だか奈々瀬だかのへやにいるかというと30分くらい遡ることになる。
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