短編たち | ナノ


来訪者



「どーうーも、失礼するぜ波田」
「一昨日来てください」


コーヒーも自分のすら用意するのが億劫になって、珈琲カップに茶渋がこびりついた頃、やっかいな来訪者が生徒会室のドアを叩いた。


島野と高岡を出禁にしたせいで毎日鳴り止まないメールの嵐に頭を痛くしてここ二日は携帯の電源を落としている。

あいつら毎日毎日パンツの色は何色だとか浮気してねえかだとかいらんことばかりメールしやがって、ぜってぇ落ち着いたら殴り込みに行く予定だ。


乱暴にゴンゴンとドアを叩いたのは無能風紀委員長の灰谷だ。
ああしくじった、昨日までに提出の書類がいくつかあったのか、


「まあそんな仏頂面すんなよ副会長サマ、綺麗な顔が台なしだぜ?」
「用がないならおかえりください」
「とりあえず中に通してくれねえ?」
「……はい」


あんまり中に入れたくねえんだが。
いろいろごった返ししてて酷い有様なんだよなぁ。


「珍しく汚ねえな」
「はいお茶ですどうぞ」


来訪者が久しいおかげでソファには埃が積もっている。まぁ灰谷だからいいけどそろそろ掃除しねえとな。

はやく双子が実家から帰ってくれりゃいいんだが。あとはやく試験終わって橘が帰ってくりゃいいんだが。


「……で、何のようですか。書類は全部出してると思うんですけど」
「あれ、修太来てねえのか?」
「は?」


なんかキョロキョロしてやがると思ったら、どうやらコイツはまりもを探していたらしい。

ったく相変わらずこの学校の馬鹿共はマリモの尻追っかけてんのか。


「…あの転校生なら来てませんよ」
「転校生って…随分他人行儀だな」
「他人ですから」

知り合いにすらなりたくねえからな。
つーかあいつがなんでここに来ると思ってんだよ。さすがにしばらく会ってねえんだぞ?

マリモも俺の尻を諦めたと判断してぇんだが。


「んだよ、無駄足じゃねぇか」


つまんなそうに茶をすする灰谷に中指立てたくなった。こちとら仕事の邪魔された挙句お茶まで出して、それでその態度かよいっぺん掘られてしね!


「つーかお前生徒会室をラブホにしてるって聞いたんだが」
「ラブホに見えますか?」
「いや、」

見えねえ。

語尾をもそもそと小さくして灰谷はまた茶をすすった。

その噂ほんとにながれてんのか。島野と高岡の言った通りだな。
いまや学校内で俺がどう囁かれてるかが大体想像できるぜ


俺もボイコットしてやりてえんだが、なにしろ内申がかかってるから辞められねぇし

あークソ。
やっぱあの猿と駄犬一発殴らねぇと。


「修太、最近見てねぇんだよな。相変わらず破損届けは来るんだけどよ」
「それならどこかで元気に物を壊してるんですよ、いいじゃないですか」
「俺は修太に会いてぇんだよ」
「知りませんよ、マリ…転校生の居場所なんて」


最近見てないって、まぁよく考えれば変だなと思う。マリモはどこにいてもうるさ過ぎて分かるからな。

あーでも猿とか駄犬の部屋に入り浸ってるとすりゃ話しは簡単だし、大いにあり得るな。

俺に害がなきゃなんでもいいんだが


「灰谷、最近うちの支倉と篠塚見てませんか?」


こいつらをどうするかそろそろ考えねぇと、って思ってたんだよな。いい機会だ、とにかく生徒会室に来いと灰谷に言付けしとけばいい。


「あ?猿とあの下半身野郎か、食堂にいるぞ?あと授業には地味に来てるぜ」
「そうですか、じゃあ会ったらそろそろ生徒会室に来るよう伝えてください」
「やっぱあいつら来てねぇの?」
「来てるように見えますか?」

つーか授業出てんのかよ。
あー、クラス違ぇからわかんねぇな。

俺も授業出てぇのにほんとクソまじクソ


茶を飲み終わったらしい灰谷は未練たらしくキョロキョロとしていた。
言っとくがもしマリモが居たとしたら笑顔で突き出すから安心してほしい。



はやく帰れオーラを醸し出したおかげかカップをテーブルに置いてすぐ、灰谷は立ち上がった。


「……波田ァ、」


出がけに灰谷が振り返る。

なんだなんだと顔をあげれば灰谷は眉に皺を寄せたまま口を開いた。


「……あんま無理してんじゃねぇぞ。顔色が最悪だ」


「……それはどうも」


余計な世話だ。







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