子ネタ

138話みてない





クロウは、苛立っているようだった。
さかしそれは先程遊星の死を予言したシェリーにももちろん向かってはいたが、どちらかと言えば己自身にもぶつけているように感じられた。気づいているものはいない。皆遊星の方をじっと見ていた。いかないで、と龍可が消え入りそうな声で言った。それを皮切りに龍亞が「いっちゃだめだよ!」と叫んだ。
この光景を見たことがある。チームラグナロクとの戦いでも、こうしてやさしい子供たちは争いを止めさせようと戦士たちの上着を引っ張った。そうして当然のように、そのか弱い手を守るためにそれは振り払われてしまうのだ。
「龍亞、龍可」遊星は二人の頭に手をのせた。「俺は大丈夫だ」
寡言な男だからこそ、覚悟が滲み出たその言葉を誰もが無下にできないのである。でなければショックで真っ青なその顔を見て、上着から手を離すことなんてできない。
「遊星」
クロウが声をかける。悪いことは言わねえお前は来るな、と言いたかった。だがあの頑固な遊星がひくとも思えなかった。遊星はクロウを頭から目から全身からすみずみまで見渡して、たった一言、クロウ、と名前を呼んだだけだった。それでクロウが考えていたことはすべて払拭されていった。固い絆で結ばれていたため、くしくも遊星の決意が揺るぎないものだと悟ってしまったのだ。クロウの苛立ちを遊星の青い目が冷やしていく。冷静さを取り戻したクロウはかわりに自己嫌悪を手にいれることになった。ああ嫌だ。クロウの周りにはいつだって死の影が絶えない。ピアスンの時も、鬼柳の時も。遊星は己を呪われた生まれだと思っているが、呪われているのはクロウも一緒だと思っている。死を撒き散らすカラスの呪い。
遊星はどうして死ぬかもしれないのに笑っていられるのか。
もし、遊星が俺ならば、と考えてみる。多分、俺は死なない、と笑ってみせるだろうなと考えた。でもその傍ら、どっかでは安堵するかもしれないと考えた。ちょっとだけ疲れていた。馬鹿な考えだ。空を見上げると死んだ町が見下ろしてくる。未来の死人が生者を羨んで、蘇ってくる。何が正しいのか何が間違いなのか、わからなくなってくる。




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