魔王。バレる。

 魔王が五条悟の養子になってから3年の月日が経ち、今年で見た目年齢7歳になる。現在は小学2年生である。
 魔王は成長しない筈だが、なぜかこの世界に来て見た目年齢が歳をとっているし、知らない間に誕生日も決められていた。

 しかし、そんな些細な疑問は重要ではなかった。呪術高専の応接室で魔王の目の前に突き出された紙が問題なのである。
 それは個人面談のお知らせと書かれたものであり、小学生でも1年に1回から2回ほどあるものである。魔王は今年で小学2年生。だが、五条は今までにこの程のお知らせをもらったことがないどころか、学校からのお知らせをもらった記憶がなかった。

「名前、どういうことか教えてもらえるよね?」
「余、知らない」

 魔王は顔を背けその一言だけ呟くと魔法陣を展開し、その場から瞬間移動で逃げだした。

「あーもう…」

 五条は行方しれずになった魔王に思わず頭をかいた。後ろに控えていた伊知地はビクビクしている。
 原因は魔王にあるが、それを黙っていたのは伊知地であり、伊知地が魔王の父親として家庭訪問や面談に出ていたのである。

「言ってくれればでたのに。伊知地も言えよ」
「す、すみません…、名前くんに止められていて…」

 五条は大きなため息を吐きながら、ソファに自身の長い足を投げだした。伊知地はこっそり泣いた。


 魔王は一人原宿に来ていた。道路沿いの生垣にちょこんと腰を下ろし、呼び出したアスモデウスに癒されながら、人気のクレープ店のいちごミルフィーユクレープを頬張っていた。

「(余、悪くないもん。むしろ、褒められる行動では?)」

 むすっと頬を膨らましながら、クレープを頬張っていると目の前に高校生くらいの女の子2人が声をかけてきた。1人はギャルっぽい感じの女の子で、もう1人は黒髪でおかっぱの女の子。

「こんなところでどうしたの?」

 魔王の目の前にしゃがみ込むように声をかけてきた。魔王は少しびっくりしたが、もぐもぐと口の中のクレープを飲み込んだ。

「…クレープ食べにきただけだよ」
「迷子??」
「違う」

 魔王はふるふると首を振った。その様子に困ったように顔を見合わせた。
 魔王は数年の人間生活で学んだことがある。初対面の相手に魔王であると言っても信じてもらえないということである。そして、この国の人間は人と違うというのを極端にいやがる。その為、魔王はふつうに紛れる努力をしているのである。

 2人がどうしようかと小声で相談していた時2人の後ろから紙袋を持った男が現れる。

「どうしたんだい?」
「夏油様!」

 その瞬間2人の表情が明るいものに変わった。2人は夏油と呼ばれた男に事情を話していた。そして、魔王を値踏みするように見やり、一瞬と膝下で視線が止まる。

「君、名前は?」
「…知らない人に教えちゃダメだってセンセーいってた」
「私は、夏油傑。この子達は美々子と菜々子だよ。これで知らない人ではないよね?」

 魔王は膝に乗せていたアスモデウスに視線が止まったことを把握した。伊達に魔王をやっているわけではない。この男が呪術師であるならば見たこともあると思うが、呪詛師なら面倒くさそうだ。
 ただ、別に名前くらいいいだろうだって余は魔王だしと軽い気持ちで告げた。

「名前。五条名前」
「…いくつ?」
「今年で…えーっと、7歳」

 魔王は指を折りながら数えて、そう答えた。魔王が五条と名乗った時男の目が少し細くなった。

「君の両親はどこにいるんだい?」
「…母親はいないぞ。父親は僕が4歳の時に認知して引き取ったクソ野郎だとみんなが言っている」
「うん、なんとなくわかった」

 魔王は応えられた問いに普通に応えたつもりだったが、夏油は思わず頭を抱えた。夏油傑はかつての親友が20前後で子ども孕ませたが、その子どもの存在に気が付かず4歳まで放置。しかも子どもは母親の存在を知らないということは、捨てられたか、呪われたかだろう。
 いや、まさかのあのバカでもそんなことはしないだろうと、夏油はかつての親友を信じることにした。

 魔王も女の子たちもそんなことは梅雨知らず、急に頭を抱えた夏油を不思議そうに見ていた。

「それは、なに?」

 菜々子と紹介された女の子が問いかけた。魔王はその指先にあるものが、アスモデウスであった。
 魔王は得意気に言い放つ。

「これはアズ!僕はきっと高学年になったらふにきゅあになるからな、きっとその為にいる妖精だ」
「えっと、ふにきゅあ??」
「知らないのか?」
「いや、知っているとも。あの女の子に人気のあれだよね?」

 魔王はそうだ!とにっこりと笑顔で笑った。魔王は魔王と名乗らないがふにきゅあになるというのは子どもの姿だから許されるのではと思っている。

「あれって、たしか女の子のものだよね?」
「そうだぞ。だが、僕はこんなに可愛いんだからふにきゅあにならないほうがおかしくない?」

 魔王は頬を挟むように拳でグーを二つ作り、大きい赤い瞳をさらに大きくさせて笑った。
 その姿を見て夏油は再び頭を抱えた。

「(こんなことするやつは、アイツかアイツのの息子しかいないだろう!)」

 夏油はかつての親友に対しての人間としての信頼度が著しく低くなった。道を違えたとはいえ、腐っても親友。その親友はクソ野郎であったと再認識させられてしまった。
 その子どもが健やかに成長していることに喜びを感じればいいのか、それとも、あれの息子ということで警戒すればいいのか分からなくなってきた。
 そもそも自分も子どもがいてもおかしくない歳という衝撃に心がやられていた。

 その時、ちょうどいいタイミングで携帯が鳴る。かけてきた人物を見ると魔王はげぇっと顔を歪める。

「おじさん、僕もう帰らなきゃ。これ、あげる。バイバイ」

 そう言って夏油に手渡されたのは食べかけのクレープ。クレープを渡すと立ち上がり、人混みに紛れる前に手を振った。

「私が、おじさん…??」

 夏油は思わずぽつりと呟いた。彼の膝の上に乗っているのをみた時、本当は彼をこちら側に引きづり込む気だった。しかし、かつての親友の息子で、その親友が想像よりクソで、自身がおじさんと呼ばれる年齢であると言うことに心が痛くなった。
 その為、今回は何もなかったことにした。心の安寧の為に。
 夏油がおじさんではないと励ます双子の姿があったとかなかったとか。


 魔王は高専には戻らず、真っ直ぐ自宅に帰った。五条は高専にいるという算段である。夕方のアニメでもゆっくり見るかなと思い、玄関をあけると仁王立ちしている五条がおりゆっくり扉を閉めた。そして、もう一度確認するように少しあけて中を除くとやはりいた。

「名前」
「余、悪くないもん」
「何も言ってないでしょ」

 魔王はそろそろと中に入り、居心地の悪そうなに顔を背ける。五条は呆れたようにため息をつくと、魔王を持ち上げてリビングに向かった。
 五条は魔王をリビングのソファに座らせるとその隣に座り、うりうりとツムジを指で押した。魔王は下痢ツボ!!と言っているが気にしない。

「別に怒ってないから、今度からはちゃんと学校からのお知らせのプリントちょうだいね?…今度渡さなかったら、ふにきゅあの映画連れてかないから」
「なんでだ!?ふにきゅあは関係ないだろう!!」
「名前が約束守らなかったらね」

 魔王はむすりと頬を膨らましながら、約束するとつぶやいた。五条はその様子ににんまりと嬉しそうに笑った。なんだかんだで、この魔王は五条の言うことは聞くのである。その様が愉快で仕方がなかった。

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