夏油くんと一緒編

 星漿体の一件から夏油が随分やつれている。大方、面倒な思考なループに入り込んで抜け出せないのだろう。
 任務帰り偶々自販機の前で会った夏油にちょっと付き合えと言って連れ出してきたのは居酒屋。
 店員にビールを2つと鶏皮ポン酢を頼み、メニューを夏油に渡した。

「…いいんですか、教師が教え子こんなとこに連れてきて」
「あ?バレなきゃいいだよ、バレなきゃ。あ、ビール飲める?無理なら違うの頼めよ」
「大丈夫ですよ」

 そう言いながら運ばれてきたビールをぐいっと飲み干した。意外とイケる口じゃねぇか。因みに、五条の坊ちゃんは俺が飲んでるのを飲みたいと言ったので飲ませてみたら一口でダウンしていた。
 夏油は店員に唐揚げとだし巻き卵を頼みメニューを置く。

「なんで、私を連れてきたんです。理由くらい教えてもらっても?」
「…偶々そこにいたから?」
「それは回答になってません」

 俺はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。ゆっくり息を吸い吐き出す。

「夏油。お前、非術者嫌いだろ」
「…そんなことは」
「はい、嘘。あんなサルどものためになんで俺がって思ってるタイプ」
「…なら、貴方はどう思ってるんですか」

 俺はタバコの煙を吸い、吐き出した。

「どうも思ってねぇよ」
「それは、答えに」
「だってよぉ、見えねぇやつに見ろよなんて無理だろ?俺らもあいつらも命は平等にあって、俺らもあいつらも死ぬ時は死ぬ。ちょっとばかし、力があるからっつて、それを大っぴらげにしちゃあ俺らは迫害の対象よ?…人間ってのは常に自分と違う、異なる存在が嫌いなんだよ」

 俺はタバコを灰皿に押し付けながらそう言った。夏油はビールを飲み干し、がんっと勢い良く机に置く。

「なら、どうしたらいいというんです。非術者たちを皆殺しにすればいいんですか」
「いや、んなめんどいこと誰がやるんだよ。殺すのは簡単だぜ、だって、それができる力がある。でもよぉ、ならなんでみんな今までやらなかったんだ?お前みたいな考えの持ち主は一定数いるだろうし、行動に起こす奴もいるだろ」
「…それは」

 夏油は口籠り、思考を巡らせている。
 俺はその感アツアツのだし巻き卵を割冷ます。

「…良心からですか。まだ人間の心があるから?」
「知るかんなもん。俺らはこうしたいつってる魂に従って生きてんだよ。じゃねぇと、俺みたいな人間生まれねぇ」
「貴方はまだマシです」
「俺みたいな人間がマシに見えてるっつーならお前も随分イカれてんな」

 夏油はそうかもしれないですと笑い、店員にまたビールを頼んだ。そこからはひたすら愚痴だ。術師としてのビジョンが見えないだの、どうするのかが正しいのかと、ひたすら同じことの繰り返し。
 そこから段々と悟はどうのこうのと同級生の愚痴に代わっていたことに少し安心した。

「お前は見た目の割に真面目すぎんだよ。大体なぁ、人類選別計画だとか、新世界の神になるだとか言ってる奴は大体最後は死ぬんだよ。俺にはお前はそうなってほしくねぇなぁ」
「…またつきあってくれますか」
「お前の奢りならいくらでも」

 ビールが8杯目になるところで、夏油はダウンした。飲みかけのビールのグラスを片手に深い眠りの中に落ちていく。吐かなかっただけ上等上等。
 俺は携帯でアッシーくんへ連絡しながら、夏油の手のひらからグラスを奪い飲み干した。

 迎えにきてくれたアッシーくんこと、甚爾に生徒を居酒屋に連れ出して潰すなんて何をしているんだとしこたま怒られて、酔いが覚めた。

 夏油は付き物がはれたとまではいかないものの、この業界に残ることにしたらしい。あの若人ならきっと大丈夫だろう。ちゃんと仲間がいる。
 俺はベンチに寝転がりながらタバコを蒸した。

 だが、問題は夏油がタバコは控えろだの、酒は控えろだなと口うるさくなったことくらいだ。余りのうるささにこの前保護した双子のミミナナを押しつけた。

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