01

 その日、俺は衝撃を受けた。本屋で何気なく手に取り立ち読みしていたジャ○プを読んだ時だった。

ーーーい、いま、ジャ○プの黄金期始まったばかりじゃねぇか!

 その衝撃は脳内を駆け巡り、俺の過去の記憶さえも引っ張り出した。それは、今の俺が生まれる前の平成を生きた社畜の記憶。社畜は毎週楽しみにしていたジャ○プさえ読む気力がなくなり、BL○ACHが最終回を迎える前にその息を引き取った。

「ま、まじか…」

 思わず声が漏れる。自身の記憶が蘇ったことよりも、今この瞬間に生まれたことへの感謝だった。
 まさか、あの北○の拳の連載に立ち会えるなんて。神達の作品をリアルタイムで拝めるなんて、前世の俺はどんな徳を積んだんだ。(徳を積んだ覚えはない)


 俺が感動に打ち震えていると、急に脛を蹴られ、その痛みに蹲ってしまう。その主を見上げると数冊な絵本を抱え俺を見ていた。

「おっさん、なにしてんの」
「おっさんじゃなくて、お兄さんなクソガキ」

 黒髪に三白眼。子供にしては目つきが悪い少年は今俺が子守りをしてる甚爾くん。家が厄介なほどに大きく、その家に生まれたはぐれもの。本家の子どもだからお付きもつけないのはおかしいと言う話になり、俺が引き受けた。俺は子どもは好きじゃないが、割りのいいお金と自由な時間がもらえると思っただけ。
 このクソガキは意外と手がかからず大人しくやんちゃしてるのは楽で嬉しい。

「で、買うの決まったのかよ」
「うん」

 俺は甚爾から絵本を受け取ろうとしたら、自分でレジに持っていくと離さなかったので仕方がない。俺はグラビア雑誌とジャ○プを手に取り、レジに向かう。
 レジで微笑ましそうに見られたのはちょっとショックだ。こう見えて今年で成人したばかりのピチピチなのに。子持ちに見えるくらい。老けてるのだろうか。
 レジで甚爾の絵本と俺の本を入れる袋を分けてもらい、絵本が入った方を渡した。ほくほく顔で喜んじゃってまぁ。後で上に請求しようとレシートを財布に挟んだ。

 さて、家に帰ったらゆっくり拝もう。



[newpage]

 俺の仕事は基本的に子守り。
 朝はご飯を食わし、小学校まで送る。その後二度寝を決め込み、パチンコか馬か雀荘に行き、学校が終わる頃に迎えにいく。夕方からは適当に過ごさせるだけである。

 子どもは放っておいても育つ。これは持論である。俺の前世の両親は、俺が幼い頃に離婚し、俺を引き取った母親は俺が小学生の時に男に惚れ込み、俺に毎月1万円だけ渡して帰ってこなかったからである。当時は少し寂しい思いもあったような気もしなくもない。(要するにあまり覚えていない)
 そのせいでもあるのか、俺は甚爾に対し適度にかまってやり、適度に放っておいた。

 今日も今日とてだらだらと過ごす予定だった。三連休が始まり特に予定もないので、二度寝でも決め込もうと布団に潜りなおした時、体に衝撃を感じる。目を開けると、俺の上に馬乗りになっている甚爾の姿。

「なんだよ、男に馬乗りされて喜ぶ趣味はねぇよ」
「…遊園地」
「あ?」
「遊園地連れてけ」
「なんで」

 俺がそう言うとぎゅっと下唇を噛み眉を下げた。そして、聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で発した。

「……学校で、遊園地も動物園も水族館も行ったことないって言ったら笑われた」

 それもそうだろう。ふつうの小学生であれば、ちゃんとした親がいて連れていってくれたりするのだろう。

「ジジイ共が許すと思うか?」
「………思わない」
「だから、よぉ」

 蚊の鳴くような小さな声で甚爾は呟いた。俺は上半身を持ち上げ、にんまりと笑った。

「黙っててくれるんなら、連れてってやるぜ?お坊ちゃま」
「いいの?」
「おう、お前が黙ってたらな。学校以外で自慢して言いふらすんじゃねぇぞ、約束できっか?」
「うん、約束する」

 甚爾にそう告げるとまるで花が咲いたように笑った。クソジジイのせいで随分スレたクソガキだと思っていたが、ああいうのをみるとやっぱり子供だなと実感する。

「なら、決まりだ。着替えてこい」

 嬉しそうにぱたぱたとかけていく。俺の部屋を出る前で振り返った。

「おっさんも着替えろよ」
「おっさんじゃなくて、お兄さんな」

 べぇっと舌をだし、今度こそ部屋を出ていった。
 俺は机に置いてあったタバコを手に取り、火をつけ、煙を肺に吸い込んだ。昔は苦くて不味くて吸えなかったものが美味しく感じる。
 俺も歳をとったと感じる一方で、そんなに老け顔かと不安になった。


 甚爾を車に連れ込み、遊園地へやってきた。初めての遊園地に甚爾は浮かれっぱなし。ぱっと見ヤバそうなやつらもいなさそうだし自由にさせても大丈夫だろう。
 俺はメリーゴーランドに楽し気に乗っている甚爾を眺めながら、売店で缶ビールを買いぷしゅりと開けた。自腹で遊園地は懐が寒くなったのでこれくらい許されるだろう。
 たまにこちらに向かって控えめに手を振ってくるのにふりかえした。

 約1分半のメリーゴーランドが終わり、甚爾が降りてくるのを確認した。ここで待っているかとベンチに腰掛け、ビールをあおる。
 だが、甚爾はなかなか戻ってこず、缶の中身が俺の胃に収まったその時。甚爾に付けていた式神が発動をしたを感じた。

ーー流石、お坊ちゃまだ。

 ある意味感心する。俺はタバコに火をつけながら立ち上がり、気配のする方に歩き出した。吐いた灰色の煙はまるで導くようにふわふわと漂った。

 煙に導かれ少し離れた駐車場に辿り着いた。そこに1匹の大きな灰色の狼がぐるぐると唸っている。その後ろにはぽかんとした表情をしている甚爾の姿。狼が唸る方をみやるとめんどくさそうなオッサンどもが数人。1人は腕が欠損しており、血を流しているのを見るとどうやら喰われたようだ。

「ケガは?」
「大丈夫」

 くしゃくしゃと乱雑に頭を撫でると腰元に抱きついてきたので、仕方がなく抱き上げた。クソ重たい。
 俺はタバコを蒸し、オッサン共に付き合った。

「で、誰の差し金だ?」
「貴様に言う筋合いはない!!」
「そりゃそうだ。…なら、まぁ、死んでくれや」

 俺は長く息を吐いた。口から出ていく煙は円を形取る。それはまるで意志を持ったかのようにオッサン共を絡み取り拘束する。俺の呪力を流した煙は特別。ワン○ースのけむりんみたいなことができないかと学生時代に遊んでいたらできたのである。
 オッサン共は汚い罵声をあげているので、甚爾に耳と目を塞いどけと声だけかけると律儀に塞いでいる。子どもが聞くようなものじゃない。
 それを確認すると、ポケットから数枚の和紙を取り出し放り投げた。

「餌の時間だ、餓狼」

 大きな狼が数匹現れ、おっさん共に襲いかかる。汚い悲鳴と骨や肉を噛み砕く音がおっさんたちの耳に木霊する。暫くすると、汚い悲鳴は終わり、そこには何もなかった。どうせ、誰かに雇われた呪詛師だろう。なら喰ってしまってもノーマンタイ。
 口元を真っ赤に飾った餓狼は満足したのかするりと紙に戻り俺の手のひらに。甚爾に付けていた式神はするりと元の場所に戻った。

 俺は何事もなかったように足を翻し、歩き出す。

「…終わった?」
「終わった」
「なら、おろせ」
「へいへい」

 俺はそっとおろした。むすっとした表情でこちらを見てくるので目線を合わせるようにしゃがんでやる。

「遅い」
「はぁ?」
「もっと、早くこい」
「おきたくん付けてんだから、いいだろ」
「おきたくん?」

 おきたくんとは甚爾に付けてる餓狼の名前で、由来は新撰組【沖田総司】からきている。当時何気なく俺の餓狼に新撰組の自分の名前をつけただけで特に深い意味はない。

「ふぅん」

 甚爾はジト目でこちらを見てくる。

「んだよ」
「なんでもない、次、ジェットコースター乗るぞ」
「いってら」
「オッサンもいくの!」
「はぁ??」

 甚爾は歩きだしぐいぐいと腕を引っ張った。俺は咥えていたタバコを靴底で消すと、仕方がなくついていくことにした。
 めんどくさいと思いつつも、面倒なことに巻き込んだのでその詫びもかねて。

「つか、お兄さんって何回言えばわかんだよ」
「うっせぇ」

 本当に子供の考えはわからない。ただ、まぁ、楽しそうなのでいいかと楽観視した。

 その後、俺は散々甚爾に付き合わされ、ジェットコースターを初め、メリーゴーランドやコーヒーカップ、観覧車にまで乗せられくたくただ。ただ、幼い甚爾はもっと疲れたのか抱っこをせがんできたので抱き上げるとそよまま眠りについた。寝顔は幼く仕方がないなと思い、車の後部座席寝かし帰路についた。(飲酒運転ダメ絶対)

 そのあと、勝手に連れ出したことがバレてチクチク嫌味を言われた。

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