02

 それからしばらく経った土曜日。俺は駅前にできたちょっした人混みに頭を抱えた。人混みの真ん中にいるのは、白銀の髪の男。つまり五条悟なのたが、どう声をかけるかと頭を悩ませているとパッと目が合う。

「傑!」

 嬉しそうな声を上げ、人混みをかき分け、こちらにやってきて俺に飛びついてくる。身体を鍛えていてよかった。俺がひょろひょろな男だったら耐えられなかった。
 飛びついてくる五条を抱きとめると五条を囲っていた女の子たちから黄色い悲鳴が上がる。それに五条は顔を歪めた。

「ごめん、待った?」
「おっせーよ。俺を待たせた罰で、今日はとことん付き合ってもらうからな」
「はいはい」

 恋人のように腕を絡ませて、でかい図体を引っ付けてくる。身長のある男2人が腕を組みながら歩いているのはかなり目立ち、周りからひそひそとみられている。それだけではなく、五条は顔がすごくいい。俺が霞んでしまうほどに。世の女たちの心を奪っていっただけの実力だ。五条もそのことに気がついたのか、機嫌の悪そうに顔を歪めた。

「アイツら傑のことみすぎ」
「私じゃないと思うんだけどな…」
「もっと、自覚しろよ」
「気をつけるよ。…それで、どこに行きたいんだい?」
「この前できたカフェ!あそこのショートケーキがうめぇんだって。傑も絶対気にいる」

 五条は嬉しそうに笑い、俺の腕を引っ張った。



 五条に連れられついたカフェは女の子たちでごった返し、列を成していた。

「本当にここにいくのか?」
「いくに決まってんじゃん」

 渋る俺の腕を引き、列の最後尾に連れられた。可愛らしい見た目のカフェは男2人で来るような場所ではないし、周りの女の子たちから頭二つ分くらい抜きに出ている長身の男2人組は目立って仕方がなかった。
 俺が肩身の狭い思いをしているのに気が付いているのか、五条は心底楽しそうに笑っている。お前が楽しいならもういいやと思い、大人しくすることにした。
 隣で楽しそうに話している五条の話を聞いていると、急に俺の後頭部に触れてきて、刈り上げている少しジョリジョリとしているところを撫でてくる。

「どうした?」
「んー、べっつにー」
「ふふっ。くすぐったいよ」

 手触りがいいのかわしゃわしゃと俺の刈り上げ部分に触れてくる。俺はそれを甘受していると気がつけばもうすぐ入店と言うところまで行っていた。

「よければ一緒にぃ、入りませんかぁ?」

 声をかけられそちらをみると可愛いらしい女の子たち2人組がいる。五条は撫でていた手をぴたりと止めて顔を歪めている。

「ハァ?ブスが話しかけてくんな」
「え、、」
「コラ、五条。すまないね、彼少し機嫌が悪いみたいで。私たちは2人で入るから、君たちは君たちで楽しんでおいで」

 五条が睨んだせいでビビった女の子たちは慌てた様子で店内に入っていった。
 五条は眉間に皺を寄せ、顔を歪めていいる。

「五条、女の子には優しくしないと。ね?」
「…アイツら俺らの邪魔したんだもん」
「それでも穏便に断るとかあっただろう?」
「…だって」
「別にいい顔をしろと言ってるわけじゃないんだから」

 五条はさらにむすりと頬を膨らませ、顔を逸らした。あまりにも子どもっぽい仕草に父性をくすぐられる。ふっくらした頬に思わずつんと突いてやる。突くとぷすーっと頬に溜まっていた空気が抜けていく。

「五条、拗ねてないでほら入ろう」

 俺が手を出すと、少し拗ねた顔で俺の手を握った。そのままカフェに入るとやはり周りは女の子たちばかり。そして、その視線を一斉に受けた。五条はそれが気に入らないのか眉間に皺を寄せた。
 案内された一番窓際の4人席につき、店員さんが頬をそめながら水を運んでくれる。流石、五条悟。動物園のパンダみたいになっている。この時代の五条はとんがってるのがそういうのに慣れていないみたい。

「なにがいい?」
「…これとこれとこれとこれ」

 席ついても五条は周りの女の子たちに威嚇している。やれやれと思いつつも俺が話しかけるとこちらを向き、メニューを何個も指をさす。

「そんなに食べれるの?」
「食える」
「なら、私はそのうちの1つにしようかな。それほど食べれないし、わけないか?」
「うん」

 五条はこくりと頷いた。店員さんを呼び止めると、五条の方をじっと見ている。俺が注文をすると「かしこまりましたぁ」とふわふわとしたような声でいうとそそくさと厨房にはっていった。

「五条、やっぱり別のとこにする?」
「大丈夫。そっち行っていい?」
「おいで」

 俺がそう言うとするりと俺の横に来てはすりすりとすり寄ってくる。店員さんがケーキを4種類と飲み物を持ってきてくれたが、じっとこちらをみてくる。やはり男2人がくっついてるのは珍しいのだろうな。
 俺がケーキをフォークで一口サイズに分けると口を開けてくる。まるで小鳥の餌付けをてる気分になる。ぺろりと3つも平らげた。

「もう機嫌直ってるだろう?」
「バレた?」

 五条は悪戯が成功した子どものように笑う。俺も精神年齢だけを見れば、これくらいの歳の子どもいても不思議じゃあないんだと改めて思ってしまう。今は高校生だけど。
 口の端についたクリームを指で拭ってやるとと頬を少し赤く染める。少し子ども扱いしすぎたかと思いつつも、子どもだしいいか開き直った。クリームのついた指を舐め取り、お手拭きで拭いていると五条は机に顔を伏せこちらを見上げる。

「ずるい」
「意味がわからないな」
「…そういうとこ」

 五条は暫くするとふにゃふにゃと嬉しそうに、子どものように笑っているので、俺の食べかけのケーキを口に突っ込んでやった。

 周りの女の子たちの視線が流石に痛くなったので、ケーキを頬張ると会計を済ませ、五条の腕をとってケーキ屋を出た。
 気がつけば、手を繋いでいたがこの際もう身を任せることにしよう。五条が嬉しそうならそれでいいのである。


 その後、2人でぶらぶらと服を見たり、カラオケに行って、解散することになった。駅で別々の方向の電車に乗らねばならないのに、五条は不服そうな顔をしている。

「…帰りたくない」
「五条も明日は用事があるんだろ?」
「…ねぇよ」
「嘘つかない。ほら、早く行かないと暗くなってしまうよ」

 膨れたように目を逸らす五条に頭を抱えてしまう。俺は彼の手を握るとそっと、口元に手をやりリップ音を鳴らす。別に本当にキスはしていないので、勘弁してほしい。
 俺の行動に大きくて丸い瞳をさらに丸くしてこちらをみている。

「私も寂しいんだ。また、今度遊んでくれるか?」
「うん!!!」
「なら、今日の楽しみは次に取っておこうね?」
「うん!!!!」

 五条は顔を真っ赤にして何度も何度も頷いた。まるで、遊園地の約束をした小さな子どもみたいで可愛らしい。
 五条はこちらに何度も振り返りながら手を振り、俺たちは分かれ帰路についた。


 最寄駅に着く頃にはもう日は沈み、街灯がチカチカと薄暗い道を照らす。人が一人も通っていない慣れた道を自宅に向かい歩いていると少し前の街頭の下に、背の高い女性が現れた。
 その女性は身長は五条よりも高く、長い黒髪に真っ赤なコート、ピンヒールを履いた女性。

『わたし、きれい?』
「あぁ、とてもきれいだよ。もう今日も遅い、早く帰るんだよ」
『えぇ、またね』

 女はそういうと姿を消した。

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