- ナノ -


1.初日

 よし、ファイナルアンサー。
 正解はAの監禁部屋をイメージした撮影スタジオです。長すぎる沈黙と幾度目かのコマーシャルを経て見事1000万獲得……と言いたいところだけど、残念なことに誰からも正解を教えてもらえそうにない。

 私が今いるこの場所は、見覚えのない一室だった。四方をコンクリートで囲まれている、殺風景な空間。そこにぽつんと、私一人が地べたに座り込んでいるという有様だ。一人暮らし用のシンプルな部屋、といえば聞こえは良いけれど、冷蔵庫もなければキッチンもないし、テレビもない。あまりにも生活感に欠ける部屋だった。
 もちろん目が覚めてから今まで、出口のドアを必死で探している。けれど、この部屋はドアノブすらも見当たらない。早い話が「詰んでいる」のだ。
 ええと……最後の記憶は、真夜中に外を歩いていて、それから…………だめだ、何も覚えていない。頭がぐらぐらと横に揺れて、思い切り壁に打ち付けてしまった。
 頭を擦りながら辺りをぐるりと見回す。家具らしい家具といえば、ベッドとテーブルくらいしか見当たらない。シーツは皺一つ無かったから、勝手にこの部屋まで連れてこられた上に、そのまま床にうち捨てられたのだと思う。あんまりだ。

「だ、だれかあ」

 思ったより間抜けな声が出てしまい、気恥ずかしくなった。居心地の悪さをごまかすために、私は端から端までやけくそに壁を叩いた。どこか脆くなっている部分があれば……という目論見は見事に大外れで、打ちっぱなしの冷たいコンクリートの硬度と、自分の手の耐久性の弱さを確かめるだけに終わった。
 文字通り途方に暮れてしまい、うろうろと時間を持て余していると、突然、向かい側の壁の一部がすうっと右に消えていった。これ、自動ドアだったんだ。どおりでドアノブが無かったわけだ。先程の行動が徒労に終わったことを確信した私は、深いため息をついた。

 ドアの向こう側から現れたのは、二人の女の子だった。その内の一人が静かに近寄ってきて、本能でじりじりと後退する。このまま拷問なんかされて、殺されたら嫌だな。どんな第一声が出てくるのか、私は戦々恐々と待ち構えることしかできなかった。

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